第三十五話 皇都血戦 11 Side Miel 


 私はナイトメアのブレードに、精神干渉──『魅了チャーム』を付与する。

 これは、干渉した相手を私に従属させる異能だ。

 一対多の場合、私は大抵この技を使う。同士討ちさせるにも、自害させるにも有効だし、情報を聞き出すことも容易だ。

 難点としては、私がこの者に干渉するのは難しいと感じた者には、効果を得られないと言う事か。

 要するに、格下には有効な手だという事。


「はああっ!」


 キールが裂帛の気合いとともに、右手のシミターを横薙ぎに払ってくる。

 一方で、ヴィランはキールの影になるように控えており、様子が伺えない。

 私はキールのシミターを、上から左手のブレードを被せるように合わせて振るい、力のベクトルを真下に変え受け流すと、右手のナイトメアから銃弾を放つ。


「ひょおおっ!」


 キールは奇声とともに身を捻り、私の銃弾を回避しながら、左手のシミターを横に薙ぎ切り抜けて来た。

 更にキールの動きに連動し、キールの斬撃から退路を絶つ様にヴィランが踏み込みながら、袈裟懸けに刃を閃かせてくる。


「――!」


 私は、その連携のレベルの高さに賞賛を覚えながら、二人の斬撃に対し武器を弾くべく銃弾を放つ。


 キールはシミターを握る手を大きく仰け反らせながら、後方に抜けていったが、驚くべき事にヴィランは私の銃弾をそのまま断ち切り、斬撃を継続して来た。


 しかし、多少なり斬撃を鈍らせる事ができた為、私はヴィランから間合いを取るように、一歩後退する。


「シャアアッ!」


 私を逃さんとばかりに、二本の刀で突きを放ってくるが、私は体勢を低くすると、その突きを、真下からナイトメアのブレードを振るい跳ね上げる。もう一方のナイトメアで、ヴィランに刺突を狙おうとしたが、背後からキールが私の背を狙いシミターを振りかぶっていたので、狙いをキールに切り替え連続で引鉄を引く。


 キールは、攻撃を中止し銃弾を回避しながら間合いを取る。


 目の前ではヴィランが、跳ね上げられた刀を今度はそのまま打ち下ろして来たが、私はヴィランの脚を払う様に蹴りを放つとヴィランもまた、攻撃の手を止め後方に跳び間合いをとった。


「やるな……」


「貴方達こそ」


 賞賛せども、殺気は些かも緩まない。


 (思っていたよりも、強いですね……)


 キールは体捌きや身体能力が相当なものだ。例の身体強化の異能を使われたら中々に厄介だろう。

 ヴィランの方は、剣技、虚の突き方、何より連携技術が高い。A+評価というのも肯けるレベルだ。


「これは、本気で行かないと危ないかもしれませんね」


「キール、こちらも全力で往くぞ。この女は、本物の化物だ」


 私は、異能と私の持つ病……エンパスをリンクさせる。

 普段は他人の心を読み取る位のエンパスを、異能とリンクさせることで相手との同調のレベルを引き上げる。

 私の定めた領域内の思考、反射等の総ての行動を、相手の反応と同時に理解できる為、メリットはかなりの物だが、これをやると相手の苦痛や、ストレスも私のものとして感じ取ってしまう為、あまりやりたくは無いのだが、これは言ってしまえば、


 私が『領域同調』を終えると、ヴィランとキールもそれぞれの異能を使用していた。

 彼等はアイコンタクトを取ると、戦闘態勢を取った。


 (あの女まで、一直線で駆け抜け、回転しながら連撃を放つ。そうして脚を止めた後、伏せるようにして、団長の飛燕斬を回避する……)


 (キールが脚を止めてくれている隙に、異能を最大まで収束させ、横薙ぎの飛燕斬を放つ……もし奴が跳べば、空中に向けてもう一方で飛燕斬を放つ)


 ふーん、成程……。キールの身体強化がどれ程のブーストになるか分からないが、必殺の一撃はヴィランが仕掛けてくると言う事か。

 飛燕斬という名前から、例の斬撃を飛ばす異能の技だろう。

 この二人の連携は、かなりの物だ。異能も絡められると流石に面倒だし……。


 (ここは、搦手でいきましょうか)


 私はナイトメアをセミからフルオートに切り替えると、二人に向けて銃弾を連続して放つ。

 これは点の射撃ではなく、面での攻撃だ。


「チッ!」


 キールは咄嗟に跳び上がり、ヴィランは舌打ちしつつ、その双刀を振り、銃弾を切り払い、それぞれ銃弾をやり過ごす。


 キールの跳躍の感覚を理解した私は、『身体強化』によるブーストがどれ程のものかを理解出来た。


 私はキールに向け、更に銃弾を放つべくナイトメアを向ける。


 (飛燕斬を放ち、銃撃を止める)


 ヴィランが、虚空で空振りをする様に刀を横一閃に振るう。


 私はそれが来ると分かっていたので、身を屈め飛燕斬を難なく躱しながら、キールが着地する所を狙い銃弾を放つ。

 初見で飛燕斬を回避したからか、目を見開いて私を見据えるヴィランは、少なからず動揺している。


 (初めて俺の飛燕斬を見た者が、それを分かっていたかのように回避した……? なにかの異能によるものか?)


 (着地の隙を狙われた! だけど!)


 キールは、着地の衝撃を全身のバネで緩衝すると、同時に猛スピードでサイドステップし、私の銃撃を回避してみせた。


 飛燕斬は確かに強力な技だが、斬撃の軌跡やヴィランの思考を読めば、対策は容易だ。かえって身体強化されたキールと近接攻撃で連携されたほうが、私にとっては面倒だった。


 (僕が手足を止めていれば、団長が仕留めてくれるはず)


 (……飛燕斬が見切られたのは偶々か、それとも……。奴の異能はアレンを狂乱させた事に関連しているものだろう。であれば、やはり先程のは偶々か)


 いい感じに二人の思考に差異が出てきたみたいだ。タイミング的にはそろそろ仕掛けても良いかもしれない。


 ――彼等のどちらか……いや、どちらも生かしたまま意識を奪い、情報を引き出す。

 検問まで行く手間も省かせてもらった訳だし、両手両足の腱を切り、少しの間、醒めない悪夢でも見てもらう位にしてあげましょうか。



 

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