第三十四話 皇都血戦 10 Side Miel 


「何を笑ってやがる……いくらアンタが化物でも、俺達三人には流石に敵わねぇぞ」


 アレンは多少恐れもありながらも、強気に振る舞う。

 内面的にも似たような精神状態だから、仲間への信頼が強いのだろう。


「そうなんですか? じゃあ、他のみなさんがここに来ちゃう前に、貴方だけでも殺しちゃうとしましょうか」


 勿論、本気では無い。アレンの異能による彼等同士を繋ぐ回線が消滅すれば、他の二人の警戒は増すだろう。

 ここは、アレンより少しだけ強い位の印象を与えておき、増援が来れば勝てる位のイメージをつけて残りの二人をおびき出すべきだ。

 さっきから送られている思念を読み取れば、私が紅の黎明の部隊長である事はもう伝わっている様だし。


 私はナイトメアを両手に構え、低い前傾を保ったまま直線的に間合いを詰めていく。

 私に向けてアレンは、その両手の銃を撃ちながら運河の河上に移動し始める。


 飛来する弾丸に向け、私に当たりそうなものを撃ち弾くと、自らの異能『精神干渉』をナイトメアに付与する。

 今回付与するのは、『憤怒ラース』衝動的な怒りを発生させ、興奮状態にさせるという単純なものだけど、思念伝達を行う彼に対しては有効だろう。勿論、狂い死なないよう手加減はするけど。


 右のナイトメアでアレンの放ってくる弾丸を弾き、左のナイトメアでアレンの太腿を掠めるように狙い銃撃する。

 

「――!!」


 銃弾は狙い通りに太腿を掠め、異能が発動する。

 アレンは一瞬動きを止め、こちらを振り返ると、ぶるぶると震えながら激昂した。


「やってくれたな……クソアマァァァァ!!!!」


 特に理由も無く、湧き上がる激しい憤怒に正常な思考を吹き飛ばされたアレンは、異能で繋がりを作っていた回線にも、怒りの感情が津波の様に流れ込んでいく。

 これで冷静に情報を伝える事は出来なくなっただろう。


 アレンは二丁拳銃を構えながら今度は、私に向けて一直線に突撃してくる。

 拳銃を使った接近戦……私の最も得意とする戦闘スタイルだけど、向こうからそれをやってくるのはありがたい。


「じゃあ、お友達が到着する前に、戦闘不能になってもらいましょうか」


 アレンが手にした拳銃で正拳突きを放つ様な勢いで、私の顔面に向けて腕を伸ばし引鉄を引く。

 私はアレンの腕を、自分の腕で受け流す様にいなすと、弾丸は私の真横に発射された。

 同じ様に今度は私がいなした腕を伸ばし、アレンの顔面に銃口を突きつける。

 アレンは更にもう片方の腕で私の腕をいなし、最初の体勢をもう一度作ると、また顔面を狙い発砲してくる。

 私は発砲の直前、骨盤を重心に前宙を切るように回転蹴りを放ち、アレンの銃弾を回避すると同時にその手に持った銃を蹴り上げる。

 蹴りを放った体勢から戻ろうとした時に、アレンはもう片方の銃を私に向けてくるが、私は回転しながら、両腕を前で交差するように振るい、ナイトメアのブレードを鋏のように使い、アレンの腕を切断する。


「ぎぃあああっ!!」


 肘のところで切断された腕から、ぼとぼとと血を落とし、アレンは絶叫する。


 無くなった腕の先を、もう片方の手で抑えようとしている所を更にブレードを振るい、無事だった腕も肘から先を切断する。


「おおおぉっっ……!! この腐れアマがぁぁぁ!!」


 自分で異能を掛けておいてなんだが、五月蝿いな。

 

「……お友達も着くようですし、貴方はそろそろ良いですよ。お疲れ様でした」


 私はアレンの頭に触れ、異能を発動する。

 使用するのは『幸福ハピネス』死ぬときくらいは、恐怖を感じないで逝って欲しいから。


 異能がアレンの精神を支配し、アレンは涙を流しながら笑う。


「ありがとう……あぁ……」


「さよなら」


 私はブレードを振るい、アレンの頸を切り飛ばす。

 力を失い崩れ落ちるアレンの身体からは、盛大に鮮血が流れ出た。


「――死んじまったか。アレン」


鮮血の魔女ブラッディ・ウィッチ……噂に違わぬ残忍さですね」


 橋の上に二人の男が現れ、その姿を月光が映し出す。

 一人は、髪を逆立ていて、獣の様な目つきをしており、獣の毛で作られた長いファーの様なものを首に巻いているのが特徴的な男だ。武装は……シミターが二本か。

 もう片方の男は、アレンと良く似た風貌をしており、黒髪の長髪を後ろでひと括りにし、黒のシャツを半ばまでボタンをはずし、だらしなく着崩していた。武装は腰に差した刀が二本。


「こんばんは。一応、気遣いはしているつもりですが、お気に召しませんでしたか?」


 私が頬に付いた返り血を拭いながら言えば、二人からは動揺が感じられた。


「一応、兄として仇討ちはさせてもらおうか……鮮血の魔女。

 俺は、ヴィラン・デデニクス。『幻狼』の団長だ」


「僕は、キール・セドニアと言います。

 『幻狼』の副団長……と言っても、もう二人きりですけどね」


 刀の男……ヴィランはアレンの兄の様だ。

 獣の様な印象のシミターの男、キールは見た目に反して、意外と丁寧な物腰だ。


「ご存知かとは思いますが、私は、紅の黎明第一部隊隊長、ミエル・クーヴェルです」


 私が名乗ると、ヴィランとキールは橋から飛び降りて来て私に対峙した。

 先程アレンの脅威度評価を見た際、この二人の脅威度も一緒に出てきたので見ておいたところ、


『『獣のキール』キール・セドニア――脅威度A 身体強化の異能を持つ。

 『鎌鼬』ヴィラン・デデニクス――脅威度A+ 斬撃を飛ばす異能を持つ』


 あまりデータが無いのはアレンも同じだったが、それは偏に彼等の実力が高く、諜報部員があまり接近できなかったということでもある。

 まぁ、脅威度Aクラスであればそれも仕方の無い事だが。


「往くぞ、キール」


「はい、団長」


 彼等は、揃って両手に刀とシミターを構える。

 ヴィランは両手に下げる様に構えているが、キールはシミターを逆手に持つ変則的なスタイルだ。


 なんの因果か私も両手装備、アレンも二丁拳銃だったが、彼等も二刀流とは。


「なんだか運命的なものを感じますね」


 私も、腰を落とし左手を伸ばし右手を顔の前に構えると、ヴィランとキールは疾風の様に私に向けて突撃して来た。





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