第八十五話 天然の起源者
肩口から左腕、そして背部の翼の様な機銃を蒼黒の焔によって消滅させられたアウローラの胸部から、戯神が姿を覗かせる。
「……キミはもはや、天然の起源者と言っていいだろうね……。相当なイレギュラーだよ。キミと云う存在は」
「あまり褒められている気はしないな。それに言っただろう。私は大層なものじゃない、ただ貴様を滅する者だと」
母様は大剣を戯神に向け、鋭く双眸を細める。
――戯神と母様、双方の表情には余裕など無い。圧しているはずの母様ですら、激しい疲労の色が身体中から滲み出ている。
あの万物を消滅させる蒼黒の焔……出力も制御も相当に力を消耗する筈だ。
「何か……私に手助けできる事は……」
アリアがよろめきながらも立ち上がり、ヴェンダー君の使っていた対物ライフルをその手に取った。
「操縦席が剥き出しになった今ならば……私でも戯神を狙い撃てる筈……!!」
アリアは力無く歩きながらも、ゆっくりと母様の方に歩いていく。
「アリア……!! 危険だ! 近寄らない方がいい!!」
私の呼び掛けに、アリアは首を横に振る。
「あの蒼黒の焔……そう長くは維持できない筈。
少しでも、サフィリアが攻撃できる隙を作る事ができれば、きっと……!!」
「アリア……」
くそ……思考が鈍っているわけではない……。だが、このまともに動かない身体で何ができるかすら、今の私には分からない……!!
せめて……命気を纏えれば……。
「リノン。アリアンロード……いやアリアの好きにさせてあげて下さい」
突然真上から声がすると、ふわふわと風に浮いたイドラの姿がそこにはあった。
「イドラ……? あ、そうか、地下に置いてきたんだった」
「まさか忘れていた訳ではないでしょうね? 突然、地下が爆発しだしたので、風で身体を浮かせてなんとか飛んできたのですが……それはともかく、あの者……サフィリア・フォルネージュでしたか……。
以前に見た時も、相当な力の持ち主と見受けましたが、まさかこれ程とは……」
「私の、母様だよ……縁を考えれば、キミの祖母とも言えるかもしれないね」
私の言葉にイドラは複雑そうな表情をしている。
「……異能者の身で、あのような炎を使えば普通であれば、直ぐに異能力が枯渇する筈ですが……。戯神の言う様に、天然の起源者というのも、言い得て妙かもしれませんね」
イドラがぶつぶつと語るが、母様と戯神の戦いは続いている。
戯神は片翼となった背部の機銃から、高圧水流を母様に向けて撃ち出した。
銃口を払うようにして三本の高圧水流が薙ぎ払われる。
しかし母様は、強烈な踏み込みで飛び上がり、それを回避すると遠心力を利用した一閃を上空からアウローラに向けて振り抜いた。
「
斬撃の軌跡に沿って、蒼黒の焔が放出される。術理は私の波濤と似たようなものだろうが、威力、速度共に私の技とは比較にならない。
それに、フォルネージュ流の体捌きと、水覇の歩法まで組み合わせているのだから、流石に最強の名は伊達では無いだろう。
母様は蒼黒の焔を纏った大剣を一閃し、振り抜いた勢いのまま空中で回転すると、角度を変えてもう一閃、蒼黒の焔を放出した。
戯神は背部の機銃から、突風を発生させ高速で機体を真横に飛ばし、母様の一閃を回避したが、再度角度を変えて放たれた一閃を回避しきれずに背部の機銃を三本纏めて焼き薙がれた。
「あぁもう……なんでキミみたいなのと、ここで会っちゃうかなぁ〜!!」
「そう言うな。私は、ずっと……貴様に会いたかったのだからな」
母様は、着地と同時にアウローラに向けて突撃する。
あれは、
一瞬にしてアウローラの股下に間合いを詰めると同時に、蒼黒の焔を大剣に渦巻かせ、アウローラの胸部から姿を覗かせる戯神に鋒を向ける。
「
轟音を上げ、蒼黒に輝く焔の激流が戯神に向けて発射される。
「……っ! くっ……この!!」
戯神は宝石の様なものを、蒼黒の激流に向けて放る。
あれは――! リヴァルの使っていた結界か!
蒼黒の激流は一瞬結界に阻まれ、その進撃を止めるが、即座に結界を砕き、灼熱の顎をアウローラに向けて蒼黒の焔が殺到した。
しかし、直前にアウローラは尻もちをつくように地に落ち、蒼黒の激流はアウローラの頭部を消し飛ばすに留まった。
「ぐう……」
「く…………!!」
戯神ももはやアウローラの半身を消し飛ばされ、残る武装は右腕の長剣のみだ。
――しかし、母様も流石に限界が来たのか蒼黒の焔は消失し、大剣を突き刺し地に膝を付いた。
「戯神……ローズル!!」
突如、耳を劈く音ともに、大口径の銃弾が戯神に向け撃ちだされる。
しかし、震える手で撃ったであろうその弾丸は戯神の顔を掠め、眼鏡を破壊するに留まり、戯神は額から血を流しながら、アリアに腕を伸ばした。
「邪魔するなよぉぉ!! アリアンロードォ!」
「――がッ!!?」
不可視の衝撃波がアリアに浴びせられ、アリアは衝撃に地を転がる。
「アリア……!!」
母様はアリアを庇うようにアリアの前に立ち、大剣を構える。
しかし遠目に見ても母様もまた、限界が来ている。
「私の……家族は、殺させんぞ……!!」
「――あぁ、嫌な眼だ!! どいつもこいつもその眼で僕を見るな!!!」
戯神は激昂すると、アウローラの長剣を大きく振りかぶった。
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