第八十四話 豊穣の力と異能の深淵
アウローラを包む白銀の輝き――それは私の使う行雲流水の命気と同質の物の様に感じたが、その放出量や密度は私のそれとは、比べるべくも無く強力な物だった。
「コレが、レイアの豊穣の力さ……!」
「く……」
あの母様ですら、白銀に輝く圧倒的な豊穣の力に警戒の念を抱いている。
その輝きが、ヴェンダー君の撃ち抜いた頭部と、私と母様が斬り落とした腕部に集約されていく。
「まさか……」
命気を使い私が傷口を癒す様に、アウローラもまたその機械の身体を再生させていく。
無機物であろうアウローラの身体が再生されていくのは中々に不思議な光景だ。
私は無機物に命気を働かせる事はできないが、レイアの起源紋とやらは、それすら可能とする……と言う事だろうか。
だがそれよりも、欠損箇所が再生されてしまうという事は、斬撃は決め手にならないと言うことだ。
アウローラの内部に居る戯神に、直接痛手を与える様な攻撃方法以外は、この後の戦闘では通用しないだろう。
「……」
母様は双眸を険しい物に変え、無言で大剣を担ぐ様に構える。
もしあの豊穣の力が、私の命気と同じ特性を持つのであれば、身体能力も強化されるだろうが、アウローラの機械の身ではそのスペックを向上させる事は流石に難しいだろう。
だが戯神は、私が断ち切った長剣も再生させると、その長剣に豊穣の力を集中させた。
「さっきリノンちゃんの戦い方を見ていて、参考になったよ。僕じゃ適合できないから、微細なコントロールはできないけれど、こうやって湧き出た力を強化したい場所に集中する事はできるしね」
……知らぬ間に、戯神の手助けをしていたなんて。
「……戯神ローズルよ。
「ん? あぁ、僕の目的って事だよね? 堅苦しい話し方だから分かりにくかったよ〜。
うーん……でも、キミには、話したくないなぁ」
「何故だ」
「だって、話せばキミは死にものぐるいで、僕を殺そうとしてきそうだからさ」
母様の問い掛けに戯神は答え無かった。しかし、その反応を聞いた母様の背が小刻みに震える。
「くくくくく……なるほどな。よく分かったよ」
「ん〜? なにがだい?」
「私の怒りに触れるのが分かりきっている事となれば、貴様の目的の過程には、私の家族に害を為す事柄があると言う事だろう。……どうやら貴様は、頭良くとも馬鹿な様だな」
「おっと、口が滑ったかな」
「まぁいい。貴様の目的を知る知らぬと関わらず、貴様を滅ぼす為に、私は今ここに立っているのだからな。
貴様の奥の手も見せてもらったのだ。そろそろ終いとしよう。
……私も、もはや出し惜しみはせん」
そう言うと、母様はその闘気を尋常ではないほどに昂ぶらせていく。
やがて蒼き焔の火の粉が、弾ける様に母様の周囲を彩ると、蒼き焔が蒼黒い焔へと変わり、母様の周囲でその熱を解放する。
「
「――は?」
母様の蒼黒い焔を見た戯神が素っ頓狂な声を上げた。
傍らでアリアもまたその眼を見開いている。
「アレは……シャルの……」
「シャル?」
私の問い掛けにアリアは我を取り戻し、私の顔を見やる。
「
触れたものを跡形も残さぬ程の熱量で、消し去ってしまう程の……それを、何故……」
「……それは、きっと母様だからだよ」
母様は、自らの力の向上には並々ならぬ努力を行っている。世界最強とまで賞賛されて尚、自己を研鑽する事を止めない。
『己をもって、平和の楔とする』という、紅の黎明の理念を真に体現している。
「そうですね……私も、誇りに思います」
――つまり母様は、自力で起源者と同等の領域まで登り詰めたということになる。
「この焔は、流石にポンポンと撃てるものでは無いのでな……往くぞ」
「――!!」
母様が、自らの周囲に渦巻かせるように蒼黒の焔を纏わせ、アウローラへと跳躍する。
狙いは、戯神の搭乗している胸部。
「
蒼黒の焔を大剣へと収斂させ、アウローラの胸部を真一文字に一閃する。
命気を纏った私ばりの速度で、母様に間合いを詰められた戯神は、アウローラを半身に傾け、致命傷を避けた。
胸部の装甲が、まるで空間毎抉りとられた様に消滅し、そこから戯神が姿を覗かせる。
母様の斬撃痕には蒼黒の焔が残り、炙るようにアウローラの装甲を消滅させていく。
「〜〜〜!!」
戯神の表情は、焦燥感に駆られているように見えるが、アウローラの纏う豊穣の力が胸部に集中すると蒼黒の焔に干渉し合い、お互いに対消滅した。
しかし母様が切り裂いた装甲は塞がろうとしない。
母様の焔と相克しているのか、そこだけ白銀に輝く豊穣の力が発生しなくなっていた。
「
大剣を振り抜きざまに、アウローラの機体を蹴り間合いを取ると、母様は戯神が姿を覗かせた胸部に向け、大剣の鋒を向けると、蒼黒に輝く焔の奔流が撃ちだされた。
「く……!」
戯神は咄嗟にアウローラの左腕に白銀の力を収斂させ、母様の蒼黒の焔の奔流に左腕をぶつけた。
蒼黒の焔と白銀の豊穣の力が、激しくぶつかり合い、周囲にその力の余波を撒き散らす。
周囲の瓦礫がその余波に押され、次々に吹き飛んでいく。
だが、次第に均衡が崩れていき、一方が徐々に相手の力を押し始めている。
押しているのは、母様だ。蒼黒の焔が徐々にアウローラの左腕を焼き消していく。
少しずつではあるが、確実に母様の焔がアウローラの豊穣の力との均衡を崩している。
やがて蒼黒の焔がアウローラの肘のあたりまで至った瞬間、一気に蒼黒の焔が勢いを強め、アウローラの左上半身を穿ち、消滅させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます