第七十四話 皇都血戦 50 Side Miel&Yohan
「やっ……た……!?」
砂塵の魔人とも言うべき、ジュリアス・シーザリオは、意識を失い倒れ伏すと、砂と化していたその身に砂が集い、通常の肉体に戻っていく。
――いったいどの様な精緻な異能制御力を備えれば、その様な事ができるのか私には想像もつかない。
少なくとも、今のままでは私がその域に達する事は考えづらい。
それに──。
「……ジュリアスも化物だが、あのヴェンダーってやつも大概だな……」
「………………」
「嬢ちゃん?」
身体が、言う事をきかない。体温が下がり、身体の先は凍傷でも受けたかの様に、感覚が無く、震えている。
(ありがとう……ガレオン……殿……)
ヴェンダーの心の声が聞こえたが、ヴェンダーも私と同じように、今にも意識を失いそうな感じだ。
あれ程の攻撃を繰り出したのだ。精神的消耗は相当なものだろう。
――それは私も同じだけれど。
二つ目の異能『剥奪』の使用は、現状の私の異能制御力では、そう行使できるものでは無い。
家電を使い過ぎれば、ブレーカーが落ちる様なものだが、私の容量が少ないのもあってか、初めて『剥奪』の力を理解し、触れた時はそれだけで意識が飛んだ程だ。
『精神干渉』を止めれれば『剥奪』を自在に使えるのかと試した事もあったが、『精神干渉』のスイッチとでも言うべきものをオフにする事は出来なかった。
そのリスクはあるが、『剥奪』はおそらく自在に使うことができれば、他者の異能自体を奪う事すら可能だろう。
だが、今の私にそれは不可能だ。なんとなく分かるが、それをやれば私は多分死ぬだろう。異能力のオーバードーズの様な感じで。
――でも、今のままではいられない。
内心では彼に出来る事など、そう無いと思っていたヴェンダーが、攻撃の基軸となり格上も格上の『砂塵』ジュリアス・シーザリオを打ち倒せたのだ。
誰だって成長できるんだという事を改めて思い知った。ならばやはり、私も強くなってみせる。
(――でも、あぁ……今回は、もう……。ここまでなんだな)
「おい、嬢ちゃん! しっかりしろ!」
「ヨハンさん。ちょっと、オチそうです。……後、宜しくお願い……します」
「……おい! ……ぉぃ……」
あぁ、全ての音が、ゆっくり……静かになっていく……団長……皆さん……どうか…………勝っ………………。
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「……寝ちまったか」
辛くもジュリアスの野郎には勝ったものの……満身創痍だな。
ミエルの嬢ちゃんは、異能の使い過ぎで
異能持ちですら、滅多に居ねぇこの世の中で、一人に二つの異能を授かってるヤツが居るんだからな……。
噂話だけの存在だと思っていたが、まさか、こんな身近にそれが居たとは思わなかった。
だが、嬢ちゃんは戦闘センスこそ恐ろしいモンがあるが、異能の使い方に関しちゃ、まだまだヘタクソだ。
『精神干渉』に『剥奪』なんて、変わった異能は使い方も難しい。更に、嬢ちゃんの場合、制御がヘタクソな理由は、例の病気のせいもあるんだろう。
実力や人格こそ、今の嬢ちゃんなら誰もが認める存在になっただろうが、まだまだ伸びる。
それこそ、やがてはサフィーに届き得る程に。
しかし、
更に、最後にジュリアスの野郎の砂壁をブチ抜いたあの力は、先ず間違いなく異能によるモンだ。あの威力の攻撃を狙撃で用いれるのなら、オリジンドールだろうが、五機……いや、十機は、軽くブチ抜ける位の威力だった。
おそらく、俺の『領域』ですら、貫通される可能性が高い。
……末恐ろしい奴だ。心底、味方で良かったぜ。
俺は、さっきのジュリアスの技を受けた時、本気で力を展開した……が、流石に無傷では済まなかった。身体の至る所が砂塵によって削られ、傷自体は深くは無いものの、出血量は軽く見る事はできねぇだろう。
――兵隊相手ならともかく、あまり手強い相手とは殺り合いたくはねぇ所だ。
とはいえ、気力的にはまだやれる。本来着くはずだった持ち場に戻って、クルトの奴を扱き使ってやるくらいならまだ出来る。
「だが、その前にやらなきゃいけねぇ事が、あるよな」
俺は傍らに放り投げていた、バスティオンを手に取る。
「……傭兵の世界に生きる者として、覚悟は忘れてねぇだろう」
ミエルの嬢ちゃんの『精神干渉』によって、深い
「……じゃあな。ジュリアス。先に逝ってろ」
バスティオンのトリガーを引き、親指の先程の弾頭が撃ちだされると、ジュリアスの頭は原形を留めない程に爆散する。
――流石に砂にはならねぇ様だな。
軽く息を吐き、少しだけ憐れむ様な気持ちになり、昔のジュリアスの事を思い出す。
たまに、息抜きで賭け事でもしてみるかと思って競馬場に行った時、偶々隣にアイツが座ってた事もあった。
「オメェ、どの馬買ったんだよ?」
「あん? ホリデーソイレンスに二百万いれたぜ」
「はぁ〜? んなもん来たら、億万長者じゃねぇか!! 来ねぇ来ねぇ! 来るわけねーよ! バカかよオメェ」
「ハン、賭ける前から無理って決めんなよオッサン。
「オメェに馬の気持ちが分かんのかよ! それにいつまでもオッサンて何だコラ」
「知るかよ、んなモン……だが、そう思ってたっていいだろうが。チッ……だからクセェオッサンには、ロマンがねぇんだよ」
「うるせぇ! クセェって言うな!」
――俺の行きつけの飲み屋で偶然出くわして喧嘩をした事もあったな。
「……なんでまたヨハンのオッサンが、ここにいんだよ」
「あ? オメェこそなんでこの店知ってんだ。俺はここに通ってもう十年近いんだよ」
「それはオッサンが年食ってるだけだろうが。此処にゃオレの女が居んだよ」
「あぁ……? 女? ってまさか……コリンの事じゃねぇだろうな?」
「チッ、オッサンが他人のオンナを呼び捨てにしてんじゃねーよ」
「はああああ!!!? ……俺はコリンがオムツ履いてる時から知ってんだぞ!? それこそ、自分の娘のように思って見守って来たんだ!! それを……テメェが……?」
「ウゼェな。それがオレに何の関係がアンだよ? キメェから失せろ」
「上等だ……!! 表出ろコラァァァァァ!!!」
――年で言えば、親と子供程に離れていたし、顔を合わせれば喧嘩ばかりしていたが……テメェの事は、嫌いじゃなかったぜ。
だが、テメェが敵の戦力であり、紅の黎明の敵であり、生きているのなら、この戦争介入に支障をきたす可能性が、僅かでもある以上……こいつは仕方のねぇ事なんだ。
「だから……許せよ。ジュリアス」
いつか、俺も必ずテメェの所に逝く。……そんときは、またドツキあいでもしようや。
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