第七十三話 皇都血戦 49 Side Vendor Bullet Storm


 どうやらミエル殿達は、俺の作戦に乗ってくれたようだ。

 オレのような格下の者の進言も聞き入れてくれるというのは、懐の深さか。


 ミエル殿が砂嵐を霧散させると、ジュリアス・シーザリオがその姿を曝け出す。


 ここからでは何を言っているか分からないが、それを気にしたところでオレにできる事は変わらない。


 ――――研ぎ澄ませ。研ぎ澄ませ。研ぎ澄ませ。


 出来ないでは済まされない……やるのだ。やってみせろ。ヴェンダー・ジーン。


 オレは、超長距離遠隔跳弾リフレクター。通称『アイギス』を操作する。

 アイギスは思った通りに動くし、移動速度も銃弾程ではないが、車等よりは余程速く動く……が、操作に神経を使い、狙撃と並行してアイギスの操作を行うのは、かなり集中を要する。

 そのうえ、今からオレが行う事は、これまでやった事は無いし、試すという発想すらなかった事だ。


「だが、やってみせる……必ず成し遂げる」


 オレは狙撃銃『アルグレア』のスコープを覗くと、いつもの様に弾丸が飛ぶ軌跡が如実に視界に現れる。

 ――コレがなんだかは分からないが、今のオレには必要なものだし、昔から共にあったものだ。今更、疑問に思う必要も無い。


「……始まったか」


 ジュリアスが膨大な砂の奔流を、ミエル殿とヨハン殿に向けて放ち、それをヨハン殿が防いでいる。


 ――あの様な災害に等しい攻撃を発生させる人間も、それを身体一つで受け止める人間も、凡庸なオレからすれば容易に人の域を超えている。


 だが、悲観するな。あの人が教えてくれただろう。特別な力等無くても、強くなれると。


 ミエル殿が、ブレードガンの引鉄に指を掛けるのが見えた。


 ――――撃ち抜く。何が相手だろうと。……オレは天使を撃ち滅ぼさねばならないのだから。


 心臓の鼓動が緊張に高鳴り、指が一瞬震えるが、それを意志の力で抑え込む。


 (ガレオン殿……どうか、オレに力を貸して下さい)


 ミエル殿が、満身創痍の身体でその引鉄を引く。

 ナイトメアより放たれた弾丸の数は――八発。オレは狙撃の軌跡と、ミエル殿の弾丸の位置を把握しながら、小刻みに銃身を動かし、アルグレアで弾丸を連射する。

 同時にアイギスを操作し、ミエル殿の弾丸を跳弾させていく。

 オレの撃った弾同士が、またミエル殿の弾丸をアイギスが弾き、その跳弾した弾丸をオレの弾が更に弾く。


 オレはアルグレアの引鉄を、次から次へと引き続ける。


 ジュリアスはおそらく、もうオレのやっている事に気付いているが、ヨハン殿への攻撃を止めないでいる。片手間に砂壁を作り出し、銃弾を防ぐつもりなのだろう。


 ――それも予想通りだ。


 オレはアルグレアの引鉄を引き続けながら、ミエル殿に向け、心の中で再度語り掛ける。


 (ミエル殿。先程の砂嵐、まだ使えますか?)


 オレの問いかけに、ミエル殿は人差し指を一本だけ立てて応えた。

 一度きりなら、使えると言う事か。


 オレが作り出した、跳弾に跳弾を重ね作り上げた銃弾による嵐は、現在ミエル殿の銃弾を含めて四十ニ発。

 何発かは跳弾が逸れて、あらぬ方向に飛んだが、ミエル殿の銃弾はまだ全て生きている。


 (ミエル殿。ヤツがこのあと砂壁を発生させるタイミングがあります。その際砂嵐の砂を一箇所に集中させて砂壁に触れ、砂壁の制御を奪った所を霧散させて下さい)


 ミエル殿は即座に手を上げて応えてくれた。ミエル殿は見るからに満身創痍ではあるが、頼みの綱はミエル殿の異能に掛かっている。


 ――仲間には、頼らせてもらう。俺は弱いのだから。


 オレは更にアルグレアの引鉄を引き続けながら、アイギスを操作し、跳弾を重ね作り出した銃弾の嵐をジュリアスに向けて一斉に集弾させる。


 ジュリアスは、何かを喚きながら自らの周りに砂壁を作り出す。


 やはり――!


 それに向けミエル殿が砂嵐を制御し、球状に作り変える。砂壁にそれが触れると、一瞬で砂壁に穴が開いた。


「ここだ――!!」


 『精神干渉・悪夢』の付与されたミエル殿の弾丸を、その隙間に向けて跳弾させる。

 繰り返し跳弾させていた弾丸自体には、殺傷力はほぼ無くなっているが、人間が即座に対応するのは難しい速度がまだ乗っている。


 しかし、ジュリアスはヨハン殿に向けていた砂の奔流を銃弾の方に向け、無理矢理に薙ぎ払った。

 それによってミエル殿の弾丸は七発も叩き落とされてしまい、『精神干渉・悪夢』の付与された弾丸は残り一発となってしまった。


「クハハハハハッ!!」


 得意気に哄笑するジュリアスの声がここまで聞こえ、再度ヨハン殿に向け奔流を浴びせ始める。


 ――だが、これを全く予測しなかったわけではない。

 こういう事もあろうかとミエル殿の弾丸は、まだ一発残してある。


 オレは即座に、対物長距離ライフル『カノープス』に持ち替え、カノープスの弾丸に、かの荒獅子より受け継いだ力を注ぎ込む。


「く……ッ」


 初めての異能の行使は、全身の力が一気に抜ける程のものだったが、引鉄に掛けた指の力だけは、意地で緩めない。


 (気張れ! ヴェンダー!!)


 気のせいか、ガレオン殿の声が聞こえた気がし、オレは刹那にも満たない間、手放してしまった集中を取り戻す。

 だが、おかげで心が高揚し、身体にも少し力が戻った。


 残るミエル殿の一発の弾丸を、アイギスで半ば無理矢理跳弾させながら、カノープスの引鉄を引く。


「『脆弱』!!」


 『荒獅子』ガレオン・デイドの力を込めた弾丸は、ジュリアスの砂壁に突き刺さると、巨大な風穴を開けて貫通し、ジュリアスの砂の身体が盛大に弾けとんだ。


 もはや首から上だけとなったジュリアスは、驚愕に目を見開き、叫んだ。


「クソが!!! コソコソ隠れたクソネズミがぁぁぁぁ!!!! …………ッ!?」


 罵声が轟く中、カノープスの弾丸が破壊した砂壁の向こう……ジュリアスの額に、跳弾を繰り返し、もはや小突く程度の強さになったミエル殿の弾丸が、ついに命中する。


 弾丸が額でコツンと跳ねると同時、ジュリアスは首だけのまま、力を失い地に堕ちる。


「はぁ……はぁ。……やった……か……」


 全ての集中が切れ、オレは強制的な眠りに着くように意識が微睡んでいく……。


「ありがとう……ガレ……オン……殿……」


 暗く、だが暖かい闇に、オレの意識は沈んでいった。

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