第六十七話 皇都血戦 43 Side Rinon



起源紋ちからを……捧げた……?」


 私は意味が分からず、イドラの言葉をただ反芻してしまう。


「我々、四大の起源紋と貴方という存在を鍵にして、あの起源神オリジンドール……我々の名の一部を使っている事は業腹ですが、それに力を集約させ……まぁ最終的には、レイア様が再臨される。という、戯神の計画ですよ。その為に、私は戯神に自らの力を渡したのです」


「アリアは力を渡そうとは、思っていなそうだけどね」


「そのようですが、戯神は当初、アリアンロードは自らの計画に、真っ先に飛びつくだろうと思っていた様ですよ?」


 ――あのアリアが?


「我々の知るアリアンロードは、直情径行的で目的の為には手段を選ばない面もありました。

 ですが、アリアンロードは戯神の手を取らなかった。

 ……我々の知るアリアンロードとは、だいぶ変わっている様な気がします。なんだか私の話し方……いや、レイア様を真似ているのかもしれませんが、彼女本来の話し方とも変わっていますしね」


 それはなんとなく分かるかもしれない。怒った時のアリアが本来の姿で、普段のアリアは何処か、何かを演じている様な感じがある。


「――多分だけど、アリアは……もうアリアンロードじゃないんだよ」


「それは、どういう意味ですか?」


「アリアは今、アリア・アウローラと名乗ってる。多分だけど、アーレスに来てレイアの死を受け入れて……絶望や悲しみを乗り越えて、今の傭兵アリア・アウローラになったんだよ。

 でも、四大起源テトラ・オリジンの一人という事にも、やっぱり誇りを持ってると思うし、さっきだってキミの事を、大切な仲間だと思っていたからこそ、怒っていたんじゃないかな?

 勿論、リノンわたし自身を大切に思ってくれているのもあると思うけどね」


 アリアは、四大起源テトラ・オリジンとしての名を捨てた訳ではないが、自分なりに現実いまを見て、受け入れたのだろう。

 もうレイアの居ない、この世界を。


「……あの、アリアンロードがですか……」


 イドラはどこか、郷愁に浸るような表情で呟いた。


「さっきも言ったけど、私はレイアじゃない。魂がどうのとか言われても、私にその自覚は無いし、寧ろ知らない人と重ねられても迷惑に思うくらいだ」


「それは、理解はしています」


「キミやアリアが、レイアに付き従っていたのか、家族のようなモノだったのかは分からないけど、私はレイアの代わりにはなれないし、戯神によってレイアに変わるつもりも無い」


「――はい」


「その上で、キミに言うよ。レイアは、もう居ない。だから……私と共に往こう」


 私の言葉に、イドラは表情こそ変えないが、色々な感情がないまぜになり、瞳が潤むのが分かった。

 イドラにとっても、レイアという存在はかけがえのないもので、喪ってしまっている事実を、イドラもまた受け入れる事ができなかったのかもしれない。


「ですが、私のこの身に残っているのは、『風の起源』の残りカスですよ? 貴方の力になれるかどうか……」


「ならば、取り戻せばいい」


「え――」


「戯神を倒して、キミの力を取り戻す。そして、キミ達の大切な者を奪った事を侘びさせる」


 戯神を屈服させれば、きっとそれは可能なはずだ。

 戯神の企みの内容はよく分からないが、奴の目的を達成させる為のファクターである、私と四大起源テトラ・オリジン

 その総てを持って、戯神に抗うのだ。なんなら、例のオリジンドールも、スクラップにしてやればいい。


「戯神が諦めるまで、企みを、そして本人を叩き斬ればいいんだ。簡単なことじゃないか」


「……ふふふ……。はははははは!!」


 私の提案にイドラは笑いだした。


「クク……やはり、貴方はレイア様には似ていませんよ。

 ……アリアンロードが、変わる訳だ」


「そのレイアと比べるの、やめる約束だよね?」


 私は不満げに唇を尖らせる。


「あぁ、すいません。……どうやら、貴方とアリアンロード……いや、アリアとでは、戯神には頭脳では遠く及ばない事が分かりました……クク」


「何だよ……馬鹿って言いたいの?」


「いえいえ、考えが足りないもの二人だけでは、戯神に踊らされるのがオチだ、という事です」


「――!! はぁぁぁ!?」


 久々にカチンと来た! 丁寧な口調の癖に性格最悪だなコイツ……!!


「なので、権謀術数……とまでは、自分では言いませんが、私が貴方方の参謀役となりましょう。少しは、思慮深い行動が取れる様になると思いますよ……ククっ」


「――キミって、嫌な奴だって言われない?」


「まぁ、そう言われる事はありますが、私より頭の悪い者にそう言われても、気に留めることはありませんね。仕方が無い事ですよ……。思考のレベルが違うのですから」


「〜〜〜〜〜!!!」


 言葉にならない、行き場のない怒りの様なものが込み上げて来る。


「ですが戯神を倒し、力を取り戻す……というのは最終的には成さなければいけないことでしょう。

 ……未だ思わぬ所が無いわけではありませんが、私も幻想に追い縋るのはやめにしましょう。

 そして、ヤツを倒せば恐らくは豊穣の力も……いえ、それは今は関係の無いことですか」


「まぁともあれ、この戦いを終わらせる事が先決だね。

 じゃ、後で迎えに来るから、ここで這いつくばっててくれる?」


「は……? 冗談でしょう?」


 イドラは、唇を引き攣らせひくひくと笑うが……。


「だって仕方ないでしょ? 私もぶっちゃけしんどいトコまで力を使っちゃっているから、キミの治療に充てる命気は勿論、地上まで担ぎ上げる体力なんて残っていないよ」

 

「ならば、足の一本くらい、折らずにいてくれれば良かったのですが……」


「キミって根性曲がってそうだから、その位滅多打ちにしないと負けを認めないかと思って」


 言い返す機会を得た私はにやりと笑いながらイドラに向けて追撃をする。


「……はぁ、分かりましたよ。ではなるべく早くお願いしますよ」


「了解〜!」


 眉の位置で中指と人差し指を伸ばし、ウインクをすれば、イドラは更に大きく溜息を吐いた。




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