第五十六話 皇都血戦 32 Side Galeon


 ――皇国軍事基地『アロゲート』、俺もヴェンダーも幾度も見てきた施設ではあるが、こうして破壊活動を行うっつう気概でこの広大な施設と向き合うのは初めての事だ。

 ミエルのネーチャンと別れた俺とヴェンダーは、基地と街を区切るフェンスを切り抜き侵入すると、コソコソ草葉の陰を進むようにして、機甲師団の格納庫に忍び寄っている。


「やっぱ、ただ事じゃねぇ広さだな。コリャ」


「テトラーク皇国最大の軍事施設ですからね……自分もこうして敵として見れば、気圧されそうにもなります」


「気持ちだけは、何があっても負けんじゃねえぞ。それさえちゃんとしときゃ、活路はいつだって有る」


 ヴェンダーは、短く首肯し俺の後に続く。


 基本陣形は、俺が前衛でヴェンダーが後衛だ……が、俺はタイマンならともかく、集団戦になると防御力に自信はねェ……。

 あの教授プロフェッサーとかいう爺さんに貰った、このプロテクターがどこまで持つかっつーセンもある。

 なんでも異能の力を送り込むと、ライフル弾程度なら防げるとか言っていたが、試作型な上に、力の変換効率も悪いらしく、正直どこまで信用できたもんか分かりゃしねぇ……。分かりゃしねぇが、アテにはするしかねぇのが現状だ。


「うっし、この辺がいいか」


 俺達は、機甲師団の格納庫から、二百メテル程離れた雑木林の中に潜んだ。


「歩兵部隊の大半は、さっきわらわらと出ていったところを見ると、銀嶺のネーチャン達が派手にやっちまってるのかも知んねぇな。

 機甲師団は未だに動きはねェ所を見ると……やっぱコッチから仕掛けるしかねぇか」


「格納庫から出撃する時は、建物の構造上一機ずつしか出撃できませんから、そこを狙撃できれば良かったのですが」


 ヴェンダーは、アルカセトで仕入れた、対物狙撃銃『カノープス』を背から下ろし、格納庫を見つめている。


「中でちっと暴れりゃ、出ばってくんだろ……そういえば、オメェが前に乗ってたデカブツって奴は、こっから見た感じじゃ、いるか分かんねぇな」


 格納庫は完全に建材で覆われ、小窓と空調の排気ダクト程度しか、外からは見えねぇ。


「以前アルナイルを受領した際は、ロプト博士のラボに立ち寄り、そこで受領したので、おそらく同型機が配備されていたとしても、アロゲートには無いかもしれません」


「まぁ、既存の規格からだいぶ外れたモンなら、新築で格納庫を造んなきゃいけねぇしな。その手の建物はねェようだし」


 楽観視はしねぇが、最悪の事ばかりは想定しねぇ。


「……仮によ、そのアルナイルっつうのが出てきたら、オメェその機体を奪えたりはできねぇのか?」


 俺の問いに、ヴェンダーは驚きを見せたあとに悩ましい様な表情を浮かべる。


「うーん……。確か以前ロプト博士に伺った時は、通常、オリジンドールは、操者の体内にある何かを認証代わりに使っているらしいのです。ちょっと難しい話であまり覚えてはいないのですが……。

 結論から言えば、一度でもその機体に操者の登録がされていれば、基本的にはその機体はその操者の専用機となります。

 ……ですが、もし未認証の機体であれば、自分やガレオン殿を操者として登録は出来るかと思われます」


「よく分かんねーし、俺はオリジンドールなんか乗れねぇから、アレだけどよ。

 ……要するに、処女ならオメェがイケる訳だな?」


「少々、言い方が気になりますが……。まぁその通りです」


 ヴェンダーの奴、なんか恥ずかしがってやがんな。気持ち悪い奴だぜ。

 まぁ、兎に角、もしそんな機体があるならかっぱらうのも良いかもしれねぇ。

 デカブツをパクりゃ、目立ちはするが、紅の黎明の本隊が来るタイミングでパクれりゃ、籠城戦の様な事も出来んだろ。

 まぁ、出て来なきゃそれに越したことはねぇがな。


「んじゃ、とりあえず簡単な手筈だけ決めとくとしようぜ。

 俺は格納庫の側面の壁に、『脆弱』を使って人間が通れるレベルの穴を開ける。その後手近なオリジンドールを何機か可能な限りぶっ潰す……機甲師団の奴等は狙撃に秀でているっつー話だから、それなりに暴れて、ヤッコさん達が慌ただしくなってきたら、正面からバックレる。

 んで、あのコンテナの積んである辺りで、教授プロフェッサーの爺さんから貰ったコイツで狙撃を防いで、少し籠城する。

 その時、格納庫から出てきた戦力を、オメェが狙撃して無力化。狙撃ポイントは適当に変えな。

 んで、オメェが補足されるか、俺が限界になったら撤退だ。

 俺が限界の時ゃ、正面に出ていってオリジンドールを一機ぶっ潰す。誤射で俺を撃つなよ?

 オメェが限界の時は、格納庫の外壁に付いてる、あの皇国の印章を撃て。それが合図だ」


 俺は説明しながら、身振り手振りであちこちを指差しヴェンダーに説明する。


「了解です。……しかし、ガレオン殿の役目は相当に危険です。危機を感じたら、すぐに合図をしてください」


 ――ヒヨッコが、いっちょまえに俺を気遣ってやがる。頼もしいじゃねぇか。


「わあってるよ。俺は『荒獅子』ガレオン・デイドだぜ? ヘマはしねぇよ」


 敢えて、強気に振る舞っては見せるものの、俺自身も、ここが死地になるかもしれねぇって覚悟はある。

 ――が、心が不安を感じた時点で負けなんだ。


「まぁ、見てろ。ガツンと機甲師団ぶっ潰して、この仕事を終えたら、また浴びる程酒呑ませてやるからよ。覚悟しとけや」


「ハハ……その際は、お手柔らかに」


 ヴェンダーはライエで二日酔いになっていたのを思い出したか、なんとも言えない妙な顔になった。


「ま、無駄話はここまでだ。……そろそろ仕掛けんぞ。頼むぜ、相棒」


「了解」


 俺は、愛剣を抜き、雑木林を抜けていく……銀嶺のネーチャンには、変な剣と言われた事もあるが、ちゃんとした銘もある一点物だ。


 『奇剣・オルトロス』――由来も何も覚えちゃいねぇが、愛着はある。

 駆け出しの頃、ぶっ潰したマフィアの保管庫からかっぱらって以来、俺の得物として重用している。


「オメェも、精々折れねぇよう気張れよ」


 剣に語り掛けるように独りごちれば、気のせいか、剣からも「うるせぇ、テメェこそくたばんじゃねぇぞ」と、聞こえた気がした。


「チッ、俺もヤキがまわっちまったかね……。

 どれ、いっちょいくぜ! オラァ!!」


 『脆弱』の異能を付与し、奇剣を縦、横、斜めと振り回し、派手に格納庫の壁をぶっ壊す。


「荒獅子ガレオン・デイド様参上だコラァ!!」





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