第五十話 皇都血戦 26 Side Aria


 地面に槍の穂先を突き込み、そこから起源力を円周状に広げていく。


氷柱の処刑人アイスツァプフェン・シャルフリヒター


「……ッ!! 生命の樹セフィロート!!」


 私の足元からシダーに向けて、次々に競り上がる極太の氷柱は、貫かれた者を氷結させ、砕き散らす。

 それを理解している訳では無いだろうが、シダーもまた高密度の樹木の壁を発生させ、氷柱の行進を阻んだ。


 だが――。


「砕けろ」


 シダーの生み出した生命の樹に突き刺さった氷柱が、高密度の樹木の壁を瞬時に氷結させ、硝子の様に砕け散る。


 ぱらぱらと周囲に舞散った氷の破片の中を突き抜け、私は鋭く踏み込んで行き、シダーの顔面を狙った突きを放つ。


 キラキラと舞い散る氷の細片を放った突きで砕きながら、私の槍がシダーの顔面を捉える刹那、下方から猛烈な勢いで生えてきた樹木によって、槍は真上に打ち上げられた。


 鐘を付いたような音を響かせ跳ね上げられた槍によって、私は身体の重心を流され、両手を挙げたように体勢を崩される。

 槍を打ち上げた樹を回り込む様にシダーは身体を回し、体勢を崩した私の胸元目掛けて、いつの間にか作り出していた木剣を突き込んできた。


 木剣といえどその鋒は鋭く、シダーの錬成したものであれば、名刀並の切れ味を備えているだろう。

 シダーは、必死の形相で木剣を振るう反面、私の顔は喜悦に歪んだ。


「おっ……らああああああっ!!!!」


「ハッ! 良い反応じゃないか!」


 私はシダーの木剣が、私の胸を捉える刹那、槍を真上に跳ね上げられた運動ベクトルを利用し、後方宙返りをする様にシダーの木剣を蹴り上げる。

 その際槍は手放してしまったが、それはシダーも同じで、私に蹴り上げられた木剣はそのまま天井に突き刺さった。


「なんつー動きだよ!?」


「弱音を吐いている暇があるなら、攻めるべきだな」


 冷や汗を流しながら口を開くシダーに、私は忠告をしながら攻め立てていく。


 踏み込みと共に立てた肘を、シダーの正中に打ち込もうとすれば、シダーは木の盾を生み出し、それで私の打撃をガードする。


「甘いな!」


 肘が盾に密着した状態から、尚、地面を震わす程に踏み込み、生み出した衝撃は盾を貫き、保持している腕そのものに衝撃を与えた。


「!? ……っぐ!!」


 木の枝を踏みつけて折れたような音ともに、シダーの前腕の骨が砕ける。

 シダーが衝撃に仰け反った所に、更に肩口に回し蹴りを放ち、シダーの身体を吹き飛ばす。


「自ら後ろに跳び、衝撃を逃したか」


 幾度も地を転がりながら、シダーは荒い息を吐く。

 起源術の行使速度や干渉力はそれなりのものだが、近接格闘術や武器を使った戦闘方法に関しては、それ程脅威ではない。


「……チッ。このままだとマジで殺されちまうな」


 シダーは舌打ちしつつ、砕けた腕を見やる。起源術の相性で言えば、私との相性は良くない。木々は強靭だとはいえ、寒冷化ではその成長は緩慢になる。

 ましてや、眷属体とはいえ私の起源術の氷は、注ぐ起源力に応じて絶対零度に近い温度まで下げることができる。

 安易にそのような事をすれば、災害が起きかねないので、限定規模でしか行使することは無いのだが。

 

 私は槍を拾い、槍に使用されているアナキティスという物質に起源力を通し、力を増幅させる。


覇道激流槍スレイプニール


 私はシダーに槍を突き出し、細かな砕氷が混じった渦巻く激流を撃ち出す。

 それは触れるものを削り、砕き、切り裂く破壊の激流。いかに強固な樹木で防御しようが容易く引き裂き、塵と化すだろう。


「……咎めの世界樹ユグドラシル


 突如シダーの身体を突き破るようにして、巨大な樹の波が生き物のように、私の放った激流に激しくぶつかった。


 シダー自身から噴出する樹の奔流を、私の放出する激流が、がりがりと削っていく。

 削ってはいるのだが、シダーが生み出す樹の速度が恐ろしく速く、少しづつ押し込まれていく。


「く……! このような技を持っていたとはな」


 シダーの前面でせめぎ合っていた力の奔流が、今や私の目の前まで迫って来ている。


 ――このままでは、押し切られるか。


「おおおおおらあああっ!!!」


 シダーは、喀血しながらも気合いの雄叫びをあげる。自らの生命力すら起源力に変換している技なのか、本人も相当に苦しそうだ。


激流槍マール・シュトローム


 私は空の掌を突き出し、そこから更にもう一筋の激流を生み出す。

 激流と激流が重なり更なる勢いを作り出す。


 ――しかし、シダーの世界樹ユグドラシルの勢いを殺し切ることはできず、拮抗状態に陥った。

 

「おおおおおおおおあああああっ!!!!」


「クソ……新たに術を使う余裕は、流石に無いか」


 お互いの起源力が枯渇するまでの勝負となるか……? シダーの起源術の展開速度や規模は、私と大差は無い。制御技術こそ私が上なものの、こういった出力勝負で拮抗する以上、起源力の総量もそう変わらないだろう。

 ――なにか、決め手があれば……。


「――我流、波濤はとう


 突如、聞き慣れた鈴の音の様な声と共に、私の横から、白銀の奔流が私の激流を後押しする様に、重なり激しく波打つ。


 白銀の激流は、シダーの起源術を一気に押し返し、シダーのその身を銀光が圧し流した。


「――ご、ガアアアアアアッッッ!!!!」


 私とリノンの力の奔流に吹き飛ばされ、この空間の壁を突き破り、視界からシダーの姿が消えていった。


「はぁ、はぁ……なんとか、なりましたか」


「うん。これで貸しが二つになったね。アリア」


 流石に消耗が激しく、荒く息を吐く私にリノンが軽口を叩く。


「ふふ、いつか熨斗を付けて返しますよ。で、そちらの戦いはどうなったのですか」


 私は、他に敵が居ないか警戒しながら、リノンにアイザリアとの戦闘の結末を聞く。


 ――まぁ、リノンがここにいる事自体が答えなのだが。


「あぁ、あのオバサンとの戦闘なら……」


 リノンは、アイザリアとの戦いを語りだした。




 


 

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