第四十四話 皇都血戦 20 Side Aria
「我々四大も、力の大半をテラリスに残してきている。例え四人分の力を奪った所で、レイディウムには遠く及ばない」
現状、この眷属体にある力は、本来の
それこそ、目の前の起源神に内包されているという母さんの──豊穣の起源紋も、環境改変という大規模な力を行使したのだから当然と言えば当然だが、かつての母さんの様な強大な力は感じない。
「今の君達の力が欲しいわけじゃないよ。欲しいのは力の根源、起源紋だ。
それは、君達の本体とリンクしている筈だからね。それを、レイアの起源紋と融合させる。……完全とまではいかずとも、今よりも豊穣の起源紋の再生ができる訳だよ」
「……それをしたところで、貴様には豊穣の起源の力は扱えんだろう」
戯神ローズルは、『異能創造』という異能を宿している。が、極希に生まれたと言われるデュアルでもない。能力や異能総量こそ非凡でも異能者の器としては平凡なのだ。
この男に豊穣の起源の力は、どうあっても手に入れる事は出来ない。
「僕が使う訳じゃないよ。あ、いや最終的には僕が使うんだけど。ま、その為には銀嶺ちゃん……リノンちゃんが必要なんだけどね」
「リノンに何をするつもりだ」
「んー、怒んないでよ? 簡単に説明するとさ、まずリノンちゃんに豊穣の起源紋を埋め込む。そして、僕が『異能創造』で、生きたままリノンちゃんの意識を、僕の意識と入れ替える異能を創って、僕が豊穣の力を持ったリノンちゃんになり変わるって予定なのさ」
「なんだと……!?」
確かに、リノンならば豊穣の力をその身に確実に宿す事が出来るだろうが……。しかし、
「私が、そのような事を許すとでも思っているのか? やはり、貴様はここで殺すべきだな」
私が戯神に槍を突きつけると、戯神は両手を胸の前で開く。
「だぁから、怒んないでよって言ったじゃないか!」
わざとらしく焦ったように戯神が語気を強めた。
そして、私と視線が合うと、その双眸をいやらしく細める。
「もし君が、君達が、その条件をのんでくれるなら……僕がレイアを復活させてあげるよ」
「……ッ」
母さんの……復活だと?
「貴様が殺しておいて、どの口が言う……それに、貴様の異能でも、死者の蘇生などは不可能だろうが」
「まぁ、それはそうなんだけどね。でも生き返らせるのではなく、魂の同位体に豊穣の起源紋と、要因が揃えば、僕でもレイアをサルベージすることはできるさ」
「魂の同位体……」
「そ、分かってるでしょ? リノンちゃんの事だよ」
――今から、十年程前になるが、私達四大起源は、母さんを追うため、眷属体の身を創り、軌道エレベーターに残されていた宇宙船を使い、長い旅路の末、このアーレスに辿り着いた。
しかし、我々がアーレスに辿り着いた時には、既に母さんは目の前の男――戯神ローズルの奸計によって、亡き者になっていた事を、ある者によって知る事となった。
我々はその事実を知ると、それぞれに解散し、各々の生活を始めた。
戯神を捜し出し殺そうとする者、絶望に喘ぎ孤独にさまよう者、母さんの遺したものが無いか探しに出る者。
私もこのアーレスを、目的も無く旅する生活を送っていた。
しかしある日、とても小さく弱々しいが、豊穣の力と似た力を使う少女と出会った。
リノン・フォルネージュと名乗ったその少女は、子供ながらに傭兵団に所属しており、私はその子供に興味を抱き、彼女の両親と出会った。
驚くべき事に、リノンの両親は両方とも女性だった。
同性婚は珍しいものではないが、同性で子を成すというのは生物学上不可能な筈だった。
リノンの両親に当時の話を聞けば、サフィリアとスティルナはかつては好敵手同士であり、二人は些細な事から決闘をする事になった。『負けた方を夫に娶る』という、馬鹿馬鹿しい争いは、世紀の大決闘となったらしい。
それの立会人をしたのが、二人の共通の知り合い、レイア・アウグストゥス・アウローラ。
――母さんその人だった。
サフィリアとスティルナは、当時のアーレスにおいて最強と言われていたらしく、その戦いは今では灰氷大戦と呼ばれており、国同士の戦争もかくやという規模で展開された。
丸一日全力でその力を振るい、死力を尽くして、尚互角だった二人の前に、一人の男が乱入した。
その男こそ、戯神ローズル。
この男は二人の決闘に突然現れ、サフィリアの左腕と、スティルナの両脚を自らの異能によって消滅させた。
母さんは、すぐに二人の傷を治療し始めたが、その隙を狙い、戯神は母さんの生命を奪った。
戯神は母さんから、何かを抜き取ると姿を消したらしいが、今にして思えば、それが目の前のアウローラに内包された、豊穣の起源紋だったのだろう。
母さんは死の間際、最後の力を振り絞り、残った豊穣の力をサフィリアの胎内へと送り、程無くして亡くなったらしい。
その時の遺言が「貴方達が、夫婦になったら、子供が生まれるから……でも、産まれてくる子は、私では無いから安心してね。
そして、いつかアーレスに来る、私の四人の子供達に会わせてあげてほしい」
との事だった。
そして、サフィリアとスティルナは、その後結婚という名目で各々の傭兵団を合併させると、程無くしてリノンが産まれたそうだ。
同性同士で子を成したという事で、アレコレ言うものもいたらしいが、リノンの顔つきも不思議とサフィリアとスティルナ、どちらにも似たものだった事と、スティルナと同じ銀髪を受け継いでいた事、また、二人が伝説級の傭兵だった為、リノンに悪態をつく者は居なかったらしい。
――つまり、母さんの最期の力で生まれたのが、リノン。
そして、存在こそ違えど、その魂の在り方は母さんと同じものだ。
それは、母さんから生み出された私には、それとなく分かることだった。
「僕はレイアの力を手に入れ、レイディウムを打倒したら、今度はレイディウムに僕の意識を上書きする。
その後、リノンちゃんの身体には、豊穣の起源紋が残ったままだ。
レイディウムの身体と力を手に入れれば、『起源創造』の力でレイアのサルベージも可能となる。……どうだい?」
確かに、封印されているとはいえレイディウムの進化し続ける叡智と、戯神と同じ異能創造があれば、それは可能だろう――しかし、
「その際……リノンは、どうなる?」
「魂の同位体を使うって事は、今のリノンちゃんの魂を使ってレイアを取り戻すって事だよ? リノンちゃんの存在は、そりゃあ消えちゃうでしょ」
――やはり、そうなるか。
「……お前の言うとおり、母さんが蘇ったら私は、私達はそれはそれは嬉しいだろうな。そんな夢のような事、考えた事も無かった……」
「じゃあ――」
笑顔を向けこちらに向き直った戯神に、私は全力で槍を突き込み、壁に叩きつけ腹部を串刺しにして磔にする。
「私は『銀嶺』リノン・フォルネージュの相棒、アリア」
そう、私は紅の黎明戦術顧問、そしてリノンの相棒。アリア・アウローラ。
はらりと垂れた前髪の隙間から、口元を歪め、戯神へ答えを言う。
「そして、貴様への答えは、Noだ」
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