第四十五話 皇都血戦 21 Side Aria


激流槍マール・シュトローム!!」


 戯神を穿ち、壁に縫い止めた状態から、激しく渦巻く水流を発生させ、壁を穿ち露わになった土の層に戯神を食い込ませていく。


 やがて、渦巻く水流に耐え切れずに上半身と下半身に千切れて、血と水の交じった赫き水溜まりへ落ちると、その身体はぴくりとも動かなくなった。


「冗談はよせ。こんなもので、お前は死なんだろう」


 私は槍を払い、千切れた戯神の身体に向け言い放つ。


「――君なら、僕の計画に乗ってくれると思ったんだけどね」


 私の背後から戯神の声が響き、其方に振り返ると、無傷の戯神が立っていた。

 背後の千切れた死体はそのまま……という事は。


「影武者か」


 戯神は「ノンノンノン」と言いながら、立てた人差し指を顔の前で揺らし、巫山戯た仕草を取った。


「僕もね、創って見たんだよ。眷属体。

 でも、なかなか調整が上手く行かなくてね『固定した異能を持った僕』しか創れなかったんだよね。それでは、僕の眷属体とは言えないかな」


「……起源者の真似事か」


「真似じゃなくて、オマージュって言ってよ。でもねぇ、なんだか不気味な感覚だよ。もう一人の自分が出来るなんていうのは、ね」


「グラマトンも、貴様のようなものだっただろう」


 グラマトンの名を聞いた戯神は、苦虫を噛み潰したような顔となった。


「いやぁ、懐かしいね。……グラマトン。僕が国の代表にさせられた時、話し相手兼面倒な仕事をさせる為に造ったものだったけど、まさかあんな思考をするようになるなんてね。

 まぁ、眷属体を造ってみたのは、息抜きの感覚だったけど、助手にしておくぶんにはそれなりに優秀だったよ。さすが僕と言ったところかな」


 ……どうでもいいことをべらべらと……良く廻る舌だ。


「最早、貴様と話す事など何も無い。後は私が疾く殺してやるから、大人しくしていろ」


 私は槍を引いて構え、左手を前に出すように構える。

 さらに幾つもの水球を、私の身体の周囲に展開させていく。


「あ〜もう、なんでこうなっちゃったかなぁ〜! 君に呼びかけてもらえば、他の四大起源テトラ・オリジンを探す手間も省けると思ったのに。

 仕方無い……アリアンロード。君からは力を奪わせてもらうよ」


 戯神はそう言うと、瞬間移動で私の傍らに一瞬で現れる。

 私は咄嗟に反応し、槍で側面を薙ぎ、更に周囲に展開させた水球から、対象を穿つ高圧水流を発射する。


「ぱっちん」


 私の攻撃が当たる刹那、戯神は指を鳴らすと、またしても一瞬で視界が変わる。


 転移させられながらも、私は力ずくで槍を横薙ぎに払い、傍らの戯神の身体を吹き飛ばした。

 

「ここは……?」


「げほっ……! アウローラを壊されちゃ、流石にたまらないからね……少し、場所を変えさせてもらったよ」


 先程まで、目の前にあった荘厳な機械人形は姿を消し、また違う空間に転移させられた。


 ――天井は高く、真四角の何もない空間……外壁は陶器の様な質感の白い壁に覆われ、どこか先程のアウローラの装甲を思い出させる。


「貴様が自らの死に場所として、選んだにしては、随分と落ち着いた空間だな」


 私は槍の穂先を床に突き刺し、前髪の隙間からじろりと戯神を睨み付ける。


「僕はまだ、死ぬ気は無いんだけどね……」


 戯神は両腕をゆっくりと肩の高さまで上げたかと思うと、掌に何か宝石の様な物を握っていた。


「何かは知らないが、諸共凍れ」


 私は槍の先端を床に打ち付けると、そこから氷の華が狂い咲いていき、冷気を発生させながら戯神の方へと、その蔦を延ばしていく。


氷華アイス・ブルーム


 高速で伸びる氷華の蔦は、戯神の身体に巻き付き、その動きを束縛しながら氷結させていく。


「異能創造・熱量操作」


 戯神は新たな異能を創造し、身体に巻きついた氷華が溶かされ、徐々に蒸気に変わっていく。

 一瞬で氷華を無効化されない事を疑問に思うが、起源の力には、戯神の異能といえど、それ程強力に干渉出来ないのか? 

 とも思うが……少なくとも、戯神の体表の氷は一瞬にして無効化された。水流や大質量の氷塊などでの攻撃を行ったとしても、おそらく何らかの対処して来るだろう。

 総合的に考えれば現状の私の力では、やはりこの男相手に一瞬で決定的な攻撃を行うのは難しいか。


 ――氷華がやがて完全に消えると、戯神も多少なり表情が険しかった。


「やっぱり、起源の力っていうのは素晴らしいね。力としては、完全に異能よりも優れている。

 ……でもねぇ、アリアンロード。起源者を創ったのは誰かな?」


「何を言っている? ……グラマトンだろう」


 戯神はにやりと口元を歪める。……その心意、思考は読めないが、なんとなく嫌な予感がする。


「ふふ、そのグラマトンを創ったのは僕だし、グラマトンの持っていた情報を、僕が持っていない訳は無いよね」


「――まさか!?」


「そのまさかさ、僕も造ってみたんだよ。起源者オリジンをね」


 そう言うと、戯神は持っていた宝石を地面に叩き付けた。

 宝石は床に当たると砕け散り、そこから魔法陣の様な物が展開される。


「くっ、なんだ!?」


「あぁ、転移の異能を組み込んだ石さ、コレは使い捨てでね」


 コマ送りの様に、魔法陣から二人の人間が現れた。


 一人は、露出度の高いドレスを着た女。紫色の髪を切りっぱなしたボブにしており、その目つきは鋭く、顔立ちは凛々しい。艶めかしい色気を漂わせており、傾国の美女といった感じだ。


 もう一人は、裾の長いカーディガンを羽織り、シャツにパンツと、服装は至って普通の男だ。金髪をオールバックに撫で付けており、ジャラジャラと華美なアクセサリーを身に付けている。なんというか、マフィアの下っ端……所謂半グレという奴だろうか? そういったアウトロー気取りの様な印象を受ける。


「初めまして……先輩ぃ」


 女の方が、にやりと口の端を釣り上げながら、こちらを見やる。

 見る者の背筋を、ぞわりと撫でるような、そんな凄絶な笑みだ。


「おいコラ、最初は名乗るのが礼儀でしょうが」


 男の方が、女に向けて苛立たしげに指摘した。


「すんません……コイツ、礼儀ってモンを知らなくて。

 ……俺は『木の起源トデンドロン・オリジン』シダー・ベルエボニー。よろしくお願いします」


 意外にも礼儀正しく挨拶し、木の起源と名乗ったシダーという男は、恭しく一礼した。


「私は『毒の起源ディリティリオ・オリジン』アイザリア・ホルテンジア。……フフ、こんな出会いでなければ、センパイの思い出話を肴に一盃やりたかったのだけれど」


 妖艶な女は、アイザリアと名乗り、その肢体を見せつけるような仕草を取る。


「じゃ、後はヨロシクね」


 シダーとアイザリアが名乗ると、戯神は二人の後方で手を降り出した。――まずい、何処かに逃げるつもりか。


「待て!」


 私は、槍を突き出し『激流槍マール・シュトローム』を戯神に向けて放つ。


 渦巻く高圧水流は、真っ直ぐに戯神に向かって突き進み……巨大な樹によって受け止められた。


「な……」


「貴方の相手は、俺等ッスよ」



 


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