第四十ニ話 皇都血戦 18 アリアの追憶 2
豊穣の起源者となったレイアは当初、突然なんの苦労も苦痛もなく手に入れたその強大な力に、恐怖し戸惑ったという。
全くの無力だった自分がある日突然、過去の歴史を振り返っても類を見ない程の、隔絶した力を持った存在になったのだ。
人間、誰しもが寝て起きたら苦労も無く、突然強大な力を得ていたとしたら、その力に酔うか傲慢になるだろう。
だがレイアはその力を持った事、またその力を振るう責任と、真正面からぶつかった。
レイアは幾晩も懊悩した。
――だが、次第にその力と向き合い、力を持った事に振り回されない為に、その力を振るう術を身に付け、無闇に力を誇示したりなどしない、高潔とも言える精神性を身に付けていった。
また、レイディウムも幼児から少年、少年から青年と成長するにつれ、力と知性を高めていった。
レイディウムは自分と同等の存在であり、自らよりも高い力を持つレイアを尊敬していた。
レイアの強い精神性に惹かれ、自らもそう有りたいと願い、レイディウムもまた力に溺れる事は無かった。
しかし、ムーレリアの民衆に対しては力無き者、または路傍の石ともいえる程度の感情しか持たず、グラマトンによって植えつけられた悪意の種によって、ローズルに対しても懐く事は無かった。
グラマトンによって育てられたレイディウムは、高い知性を持つ反面、道徳的な精神を成長させる事はできず、レイディウムの感情は未熟なままに育っていく。
二人の原初の起源者が誕生してから、百年程が経った頃、レイアは極希に現れる他国による侵略行動を悉く壊滅させていたが、やがて自らの存在意義を疑問に思うようになる。
自分は、ただ敵を殲滅させる兵器に過ぎないのだろうか? やがて来る未知の脅威とやらの為に、起源者となったと言っても、その未知の脅威とは何なのか。……今のままでは、ただの死神だ。
そう考えたレイアは、グラマトンに要請し最前線から離れ、レイディウムが自身の代わりに任に着くと、ムーレリアに既に建設されていた軌道エレベーターへとその身を移した。
やがて、大地から天を衝く様に延びた天空の居城で、レイアは自らの力を分け、四人の眷属を創り出す。
生命と森羅万象の力を内包した豊穣の起源から、地水火風の力を分け与えられ、私達は生まれる事となった。
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それぞれ、そう名付けられ誕生したレイアの眷属は、それぞれ強大な力と神器と呼ばれる武器を持ち、後に
──私達は、母さん……レイアの人格的特徴を、それぞれ少しずつ受け継いでおり、ラディウスは穏和な性格を、私は怒らせると苛烈な性格を、ファルティーナは無邪気な性格を、イドラスフィアは丁寧で気遣いができる性格をそれぞれ色濃く受け継いだ。
私達は創造された後、基本的には隕石の迎撃等を主任務とし、ムーレリアの防衛は成熟したレイディウムが問題無くこなしていた。
しかし、私達起源者達の取った行動は、ここまではグラマトンの予測していた通りだった。
ただ一つ、予想をしていなかった……いや、予想を超えられたと言うべきだろうか、グラマトンにとって不測の事態が発生する。
──それは『叡智の起源者』レイディウム・アウグストゥス・セシアントの謀反。
グラマトンが、ローズルを排除したいと思っていた様に、レイディウムもまた、グラマトンを消し去ろうと考えた。
しかし、ローズルがグラマトンに仕掛けた様に、グラマトンもまたレイディウムとレイアに、思考セーフティを掛けていた。
そのセーフティの内容は、「グラマトンへの叛意という思考そのものを不可能とする」というもの。
つまりグラマトンに害をなそうという、思考が発生しないというものだった。
レイアは、そもそもの性格も穏和であり、力を振るう事、敵を滅する事にも常に責任を感じる事を止めなかった為、セーフティなど無くても反乱を起こすという思考には至らなかったと思われる。
しかしレイディウムは、進化し続ける自らの高い知能により、ブラックボックスとも言えるそのセーフティを自力で発見し、その内容を知ると『起源創造』の力で、自らのセーフティを書き換えた。
その書き換えにより、グラマトンが自らを謀っていた事、自らを利用し、ローズルを排除しようとしていた事等、自らに仕掛けられていたグラマトンの陰謀を理解する。
そして、特に何も無い……強いて言うならば、雲一つなく晴れ渡った穏やかなある日に、レイディウムは朝の挨拶をすると、突然グラマトンを破壊した。
グラマトンは様々な場所に、バックアップを設けていたが、『起源創造』を持ち、グラマトン自身に匹敵する叡智の持ち主であるレイディウムにとって、それは容易な殲滅戦だった。
程無くして、グラマトンはこの世から完全に消滅すると、レイディウムは何故か本来、グラマトンによって自らに定められた使命を果たそうとする。
それは即ち、戯神ローズルの殺害だった。
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