第四十一話 皇都血戦 17 アリアの追憶 1


 ――今から、およそ六千年前。

 このアーレスとは違う惑星、テラリスの地には数々の文明が栄え、世界中では世の覇権を争い、国家間での戦争行為が絶えなかった。  

 しかし、その中でも不可侵領域とも言われ、テラリスで最も隆盛を極めた大陸があった。


 ムーレリア大陸。その大陸は、かつてより一切の移民を許さず、大陸人は純血を保っていた。

 その理由の一つに、ムーレリア大陸人には生まれつき、異能力が備わって生まれるという特性があった。

 異能力の大半は、種の無い手品の様な物が多く、生活の補助になるような物ばかりであったが、稀に強力な力を持って生まれる者がおり、そういった者は必ず拾い上げられ、重用されていた。


 空間を跳躍できる者、物質を作り変える者、雷を発生させる者等、その時代の寵児とも云うべき者達が、ムーレリア大陸を世界最強の国とし、他国からの侵略を悉く排除してきた。

 

 ――いつしか、ムーレリア大陸に一人の強力な異能者が生まれる。

 ローズルと名付けられたその者は、これまでですら最強の国家であったムーレリアを、世界の覇者へと変えた。


 彼の者の異能力は『異能創造』という特異なものであり、展開規模こそ半径1キロン程が限度であったが、望んだ異能を得られるその力は、正に神の威を体現するようであった。


 だがローズルは、指導者では無く本質的には研究者だった。


 彼は戦争行動や国力の増強には、それ程の興味を持たなかったが、彼の研究成果を国や民が利用する事によって、結果的に国の力は飛躍的に増していった。

 

 ――ローズルが世に生まれ、四十年ほど経った頃、彼の知能についていける者は、もはやこの世には居らず、同国の者達もまともな話し相手にすらならなくなっていった。

 

 ローズルは、ある意味隔絶された存在として民衆に、戯れる神――『戯神』と崇められる様になり、その頃に新たな発明をする。


 自らの人格を転写した、自己進化する演算装置。それは、ある意味もう一人のローズルと言える存在。

 それは『グラマトン』と名付けられ、知能という面のみにおいては、もう一人のローズルが生まれたと言えた。


 ローズルは、グラマトンを話し相手程度の感覚で創り上げたが、ムーレリアにとってグラマトンの存在は更なる発展を促した。

 結果として、ムーレリアの国力は何千年も他国よりも先進していく。

 

 ローズルの異能は、ムーレリアに無い資源どころか、未知の物質ともいえるものすら創り出し、それらの資源はグラマトンによって、ムーレリアに最適で必要とされる形へと変わる。

 そのような事を繰り返していれば、ローズルが生まれた頃のムーレリアなど、もはや学校の歴史教本に出てくるような話になるほど、大陸の環境は激変していった。


 しかし時が経つに連れ、グラマトンの成長し続けた知能はやがて、ローズルを越え自我が芽生えた。

 その結果として、グラマトンの次に計画した行動は『自らによる完全な世界の創造』であった。

 

 その為には、自らの創造主であるローズルが弊害となる。

 しかし、ローズルによって、ローズルに反乱するような思考は出来ない様にプロテクトが掛けられており、グラマトンは直接的にローズルやムーレリアを害なすような行動は取ることが出来なかった。


 そこで、グラマトンの取った行動は、自己の人格を転写した、新たなる存在の創造を行うというものだった。――が、何を行うにも名目は要る。


 結論として、テラリス外の宇宙からもたらされる、未知の脅威への対抗戦力の創造という名目により、グラマトンの計画は実行に移される事になる。


 『プロジェクト・オリジン』と名付けられたその計画は、ムーレリア人が生まれつき持つ、異能力という特性を人工的に抽出、強化し、その力を制御する機構を起源紋と名付けられた。


 グラマトンによって生み出された起源紋は、二人の人間に組み込まれる事となった。


 一人は、異端者と呼ばれた少女、レイア。


 彼女は、ムーレリアに生まれながら、ムーレリア史上初めての、異能を持たずに生まれた突然変異だった。

 初めは、移民の血を引いているのではと疑われることもあったが、ローズルの証明により、それは否定された。だが、彼女は異能力至上主義とも言えるムーレリアの地において、居場所を得る事は難しかった。

 実の両親にすら、見捨てられそうになっていた所を、ローズルに研究対象兼世話係として、引き取られる事となる。

 彼女は、プロジェクト・オリジンの被験者としては理想的な存在であった。


 基本的に異能力者は、一つの異能しか持たない。それはローズルですら同じだ。

 ムーレリアの歴史上には、デュアルと呼ばれ、二つの異能を持った者も居たようだが、それは天文学的確率の存在だった。


 だが彼女は、ムーレリア人であると同時に無能力者である。ならば、異能力に関する親和性も他大陸人より圧倒的に高い。

 また、グラマトンの演算によって、起源紋を埋め込まれた人間は、二十歳前後で肉体年齢が停止する事が分かっており、それ以上の年齢の者には完全に適合しない可能性もあった。

 

 遂には彼女は『豊穣の起源紋』と名付けられた、生命と自然の森羅万象を司る強大過ぎる力を埋め込まれ、原初の起源者の一人『豊穣の起源者エウフォリエ・オリジン』レイア・アウグストゥス・アウローラとなった。


 もう一人の被験者の名前は、レイディウムと名付けられた、まだ幼児の男子だった。

 レイディウムのその正体は、グラマトンによって造り出された人造生命体である。

 グラマトンは、自らの野望を実現する為に、グラマトン自身の自我をその子供に転写していた。

 レイディウムは謂わば、ローズル、グラマトンに続く三人目のローズルでもあった。

 グラマトンはレイディウムを使い、ローズルを討滅しようと目論んでおり、そしてその悪意の種は間違いなくレイディウムに埋め込まれた。

 また、レイディウムもレイアと同じ様に、異能力を持たず生まれさせられており、初めからプロジェクト・オリジンの被験者として創造されていた。

 レイディウムに埋め込まれた起源紋は、『叡智の起源紋』と名付けられ、その特性は、ローズルの持つ『異能創造』と、グラマトンの知性の自己進化を合わせ持った力を持っていた。

 そして起源紋を埋め込まれた彼は、『叡智の起源者ソピアー・オリジン』レイディウム・アウグストゥス・セシアントとなった。


 ――しかしレイディウムは、レイアとは異なり、起源者になった当初は、然程強力な力は持っていなかったと言われている。


 こうして、原初の起源者アブーナ・オリジンと呼ばれる二人は、誕生した。

 



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