第四十話 皇都血戦 16 Side Aria 


「君は、相も変わらずの激情家だねぇ。アリアンロード。ホントにあのレイアから生まれた存在なのかなぁ?」


「黙れと……言っている!」


 皇都の街並みを高速で疾走しながら、戯神は私を煽ってくる。

 稚拙な奸言だとは分かってはいるが、私の自我が、心理が、感情の全てがそれを凌駕するように理性を否定し、殺意と憎悪がそれを上回る。

 怒りのままに槍を突き出し、水流を浴びせるが、その度に戯神の姿がぶれて回避される。


 今の奴の異能が何かは分からないが、おそらく空間に干渉する様な類の異能だろう。


 戯神ローズルの異能は『異能創造』。


 奴は望んだ異能を手に入れる事ができる。数は常に一つだけで、干渉領域もそれ程広い訳では無いが、その汎用性は言うまでもない。


「アリアンロード。僕はね、君を殺したいわけでも、決して怒らせたいわけでもないんだよ。

 話がしたいんだ。だから、少しついて来てくれないかな?」


「誰が、貴様の話など……」


「レイアの、力の根源の事だよ」


「何……!?」


 戯神の言葉に、私は思わず動きを止めた。

 

「確かにレイアを貶め、その存在を奪ったのは僕だよ。でも……いや、だからというべきか。

 レイアの力の根源――つまり、起源紋は僕が持っている」


「……」


「君は……あぁいや、アーレスに来ている他の起源者達も、それが目的でもあるんだろう?

 相手が僕でもあるから、急ぐつもりも無いのも分かるし、銀嶺のあの子もまだ子供だからねぇ」


「どの口が言っている……!」


「ふふ。怒りながらも、攻撃の手を止めたということは僕の話、聞く気になったという事かな?」


 本当に、反吐が出るなこの男は……!


 だが……仕方が無い。仕方が無いんだ。


「……分かった。話は聞く」


「んん〜! 良かった良かった! じゃ、僕の研究室に行こうか」


「だが、妙な真似をしてみろ。貴様の来世の可能性まで凍結させてやる」


 私は、全力の殺気を込め睨みつけると、戯神はわざとらしく「お〜こわ」とぼやき、震えてみせた。


「じゃ、ちょ〜っと跳ぶから。もう少し近くに来てくれるかな?」


「……」


 私は無言で槍を突き付け、戯神の近くに寄ると、


「ほい、パッチン」


 戯神が指を鳴らすと、一瞬の浮遊感の後、景色がコマ送りの様に変わった。


「こっちだよ」


 戯神は手招きをして、暗い通路を歩き始める。


 どうやら、地下のようではあるが、どのくらい地下なのかは分からない。

 建造物としては、アーレスで見るものよりもテラリス寄りで、機械化されている。

 

「ところで、キミ、本来の武器はどうしたの?」


「神器のことか? テラリスに置いてきている……それがどうした」


「そうなんだ。いや、ちょっとね〜。それより、そのツンツンした態度、止めてくれないかな〜? なんだかおっかなくて」


「何故、私が貴様を相手に友好的に接する必要があるのだ。……本来なら、すぐさまその不快なツラに、この槍を叩き込みたい所だ」


「だから、怖いってば。やだなぁもう」


 ……私の心を乱そうとしているのか、それともこの男の素なのかは知らないが、いちいち癇に障る。

 おそらく、母さんレイアの事が無くても、この男とは友人にはなれないだろう。なんというか、生理的に無理。というやつだろうか。

 やがて戯神は、一つの扉の前で立ち止まり、私の方へ向き直る。


「? なんだ」


「怒んないでね」


 戯神はそう言うと、扉を開いた。

 中は暗く、広大な空間がある事は分かるが……。


「明かりつけるよ〜」


 間の抜けた声と共に、照明がこの空間を照らした。


「な――!!?」


「これが、僕の起源神。『オリジンドール・アウローラ』だよ。レイアの力の根源、豊穣の起源紋が組み込まれてる」


 目の前の起源神……起源兵では無く、神を僭称するというのは、なんともこの男らしいが、その巨大な白銀しろがねの機械の巨人は、神と言われても不思議では無い、荘厳な雰囲気を纏っていた。


「僕はね、これでテラリスを取り戻そうと思っていてね」


「……なんだと?」


「まだコレは未完成なんだけどね。これが完成すれば、テラリスから僕を追放した原初の起源者の一人……レイディウム・アウグストゥス・セシアントを、滅ぼせる程の力を手に入れる事ができる」


 レイディウム・アウグストゥス・セシアント。ここでその名が出て来るとは。


「お前が、今のレイディウムを滅す事が出来るとは、私には到底思えないがな。だが……コレは何を以て完成となると言うのだ」


 私が、訝しげに言えば、戯神は喜色満面の笑みを浮かべる。……気味が悪いな。


「ん〜! それはねぇ、力さ。アウローラは器なんだ。レイアの起源紋を組み込んで、現状でもそれなりには強力なんだけどね……ただ、豊穣の力は完全ではないし、その本来の力の持ち主でなければ、やはり真髄を発揮する事はできないのさ」


「……母さんの力だけでは飽き足らず、何を求める」


 私は、悔恨と慚愧の思いを胸に押し込み、戯神に問う。


「そんなの決まってるじゃないか。君達、四大起源テトラ・オリジンの力。そして、君の相方……銀嶺ちゃんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る