第三十八話 皇都血戦 14 Side Miel
『血旋騎』シオン・オルランド。
その男は傭兵界隈では、あまりにも有名な存在だ。
持ち手の両側に延びた、長い両刃の特殊な剣。ダブルセイバーを自在に操り、戦場に血の旋風を巻き起こす『紅の翼』の副団長。
彼は、紅の翼と蒼の黎明が合併した際、団を辞したと聞いている。
サフィリア団長にその際の話を聞いたこともあるが、団長曰く「シオンが抜けた理由は私にも分からない。だが競う者が居なければ、自らが停滞する。……それを奴は恐れているのだろう」と、言っていたけど、意を噛み砕けば、最強になるであろう団に属していては、それ以上強さを求めなくなりそうで怖い。という事だろうか?
要は、かなりの戦闘狂なのだと思う。
しかし流石に状況が変わってしまった。そんなのが居る様では……。
「おそらく、シオンとまともに戦えるのは部隊長クラスと、団長、リノちゃん、顧問くらいですかね……」
シオン・オルランド単体なら、脅威度評価にも参照可能だ。
しかし、その脅威度たるや、
『血旋騎』シオン・オルランド――脅威度SS。異能『
……異能に関しては、シンプルな能力だけど、それ故に対応が難しい。
脅威度SSというのは、部隊長クラスからそれ以上に相当する脅威度で、世界に何人と居ないであろう存在でもある。
確実に行くなら、部隊長クラスが複数であたるレベルだ。
――つまり、私一人ではやられる可能性があるという事。
「奥の手が無い訳ではありませんが、流石にリスクが高いですね」
「まぁ、いくらアンタでも、あの『血旋騎』相手はキツイだろうな。」
私のボヤきに口を合わせてきたのはヴィランだ。
それは、嫌味や負け惜しみでは無く、私を強者と認めた上でそう語っている。
それ程に、シオンと顔を合わせたときの印象は強いものだったのだろう。
「正直、私とは相性の良い相手では無いでしょうね。……今回の戦力だと、リノちゃんが一番相性がいいかな?」
「銀嶺のネーチャンか」
単純な戦闘スタイルから見れば、やはりリノちゃんがシオンとの相性はいいだろう。
命気による身体強化は、キールの異能とは比べるべくもない。おそらくシオンのスピードにも引けを取ることは無いだろう。
技量の方も、今のリノちゃんならそう遅れを取ることはないはずだ。
ただ、ガレオンが気に掛けているのは、リノちゃんのメンタル的な面だ。
確かにまだ十六才の少女に、割り切るものは割り切れと言っても難しい事も多いだろう。
だが、リノちゃんなら様々な葛藤や困難も切り裂いて行くだろう。
――私はそう信じている。
「因みに、ジルバキア傭兵団の戦力規模は分かりますか?」
私の問に、ヴィランは気負いも無く淡々と語る。
「シオン・オルランドの他に、副団長が居た。
……『砂塵』ジュリアス・シーザリオ。コイツも有名どころだな。他にも団員は二十人程だったが、どいつもこいつも平団員と括ることは出来なそうな練度の奴等だった」
「ここに来て、さらにジュリアス・シーザリオですか」
『砂塵』の異名を持つその男は、かつてスティルナ・ウェスティンの率いていた傭兵団、『蒼の黎明』副団長、ジュリアス・シーザリオその人であろう。
ウチの団長とスティルナさんが、自分達の団を合併した様に、後に副団長同士が傭兵団を作っていたというのも奇縁だなと思う。
私は端末を操作し、ジュリアスも脅威度評価にて参照する。
『砂塵』ジュリアス・シーザリオ――脅威度SS。異能『砂塵』は五百立法メテル程の砂を操り、攻撃と防御に使用していた事を確認している。
とあった。汎用性の高さを感じる異能だ。この男に関しては、団長や顧問が相性としては良いだろう。
またしても、私との相性はあまり良くない相手だ。
それでも、遅延戦闘くらいは出来るだろうが。
「……事態は、割と難しい状況でしたか」
決して、ナメていた訳ではない。……だが、
だが、このジルバキア傭兵団とやらは、おそらくだが、紅の黎明と敵対し闘争する事を求めている。
現状、シオンやジュリアスを単独で倒せる様な者達は紅の黎明以外には殆ど居ないだろう。
「……となれば、紅の黎明か団長との戦闘そのものが目的、というところでしょうね」
だが、我々の作戦行動において、勝利条件は彼等の討滅では無く、皇国の降伏だ。
皇帝を討つか、降伏させ権力を剥奪する事が我々の目的。
「まずは、情報共有と、自分達の行動の見直しが先決ですか」
「ヤベェのが、敵に居るのが分かったのはいいけどよ。俺達の腕の長さは延びねぇ。……やれる事をまずはやろうや」
「今まさに、それを思い直していた所ですよ」
思考の海に潜り、独り言の様にブツブツと喋っていた私を見て、ガレオンが口を開いた。
「ガレオンさん、貴方って、以外とオトナですよね」
「アン? まぁ、下の方も荒獅子だとは思うぜ」
私の言葉の意味を分かっていて、茶化すのだから、そういう気遣いの様なものに関しては、私はこの男に負けているのだろう。
「――戻りました! って、これは……」
部屋のドアが開き、ヴェンダーが入ってきた。捕虜の二人を見て口を丸くしている。
「おう、お疲れ」
「無事でしたか。ですが、あまり軽率に行動はしない様にして下さいね」
私とガレオンは各々声を掛ける。
「申し訳ありません。ですが、アロゲートの情報はあれこれと見て参りました」
何か収穫があったのか、ヴェンダーは自信ありげにそう言った。
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