第三十七話 皇都血戦 13 Side Miel
「ただいまです。よいしょっと」
「うおっ、そいつ等……幻狼のデデニクス達か!? 検問所の兵士から情報取るんじゃなかったのかよ?」
私は部屋に入るなり、傭兵団『幻狼』の二人を雑に床に落とすと、ガレオンは私のお土産に不可解な視線を投げた。
「検問所の兵士よりも、彼らの方が情報源としては良いでしょう。
彼らは傭兵団『幻狼』のお二人です。もう一人は殺しちゃいました」
「マジかよ」
ガレオンはソファから立ち上がり、二人の顔を改めた。
「確かにヴィラン・デデニクスと、キールだったか。
……つーことは、アレンの奴は逝っちまったのか」
「お知り合いでしたかぁ?」
「ま、ちっとな」
皇国をねぐらにする傭兵同士、知らない仲ではなかったのかもしれない。
「ところで、ヴェンダーさんは?」
「アイツは、偵察に行きてぇって言うから、行かせたよ。……まぁ、変な事はしねぇと思うぜ。ちゃんとした顔してたからな」
……彼は狙撃能力は非凡だが、近接戦闘能力、身体能力に関してはその辺の兵と大差が無い。
そのような人間が、単独偵察というのは些か危険だと思うけど。
「アンタの考えてる事も、なんとなくわかるけどよ。アイツは自分が弱ェ事は、ちゃんと分かってるから大丈夫だろう。
今後傭兵として生きるなら、そういう自覚は尚更必要だしな」
「それもそうですね。……ま、こんな事で死ぬようでは、紅の黎明でも使い物にはならないでしょうし」
――それはさておき、彼等の意識が回復する前に、やるべき事をやっておくか。
「なにやってんだ?」
突然ナイトメアを抜いた私に、ガレオンが眉を顰めた。
「一応、彼等も戦争参加者ですから、しばらく戦闘不能になる様な外傷を与えておこうかと。
私の異能で意識を奪っても良いのですが、それを覚醒させたりできる異能等がある場合も想定しておかなければいけませんしね」
「……徹底的だな」
「いえいえ、リノちゃんの様に外傷も回復させられる異能があるかもしれませんから、確実ではありませんよ」
「なるほどな」
ガレオンは多少なり、嫌悪感があるようだが納得はしたようだ。
「俺がやるよ。
……アンタ、四肢の腱を切るつもりだろ? それだと、こいつ等が復帰するのは絶望的だ」
そういうと、ガレオンは、ヴィランとキールの二の腕と大腿骨を、次々に圧し折った。
「貴方も、優しいんですね」
「……アンタよりはな」
どうやら少し、嫌われてしまったようだ。
「こいつ等には、以前『幻狼』に誘われた事があってな。
それが縁で、たまに呑んだりもしていた仲なんだ」
「今は、敵ですよ?」
「それでも、だ。……この戦いが終わったら、またコイツらと呑みてぇからな」
そこまで言うなら、『幻狼』に参加すれば良かったのでは? とも思ったが、『荒獅子』ガレオン・デイドといえば、ソロでしか行動しないという事は聞いたことがある。
……だけど、今はこうしてウチの戦争介入に協力しているし、そこまでガレオンが連携のできないタイプとも思えない。
となると、彼の心理を感じた通りであるならば、これ以上は踏み込んではいけない所だろう。
「うっ……」
そうこうしているうちに、キールが意識を取り戻したようだ。
四肢の骨が折れてはいるが、高位の傭兵だ。痛みには強いだろう。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「鮮血の魔女……」
「貴方達を生かしたのは、他の傭兵団の配置を聞きたくてですね。
あ、別に話してもらう必要は無いですよ?」
私がそう言い、キールの頭を撫でるように掌を当てると、ガレオンはバツが悪いのか、彼等の視界から外れるようにして、窓の外を眺めだした。
――
「あ……」
「キールさん。皇国に雇われた傭兵団の数は知っていますか?」
私の問いかけに、キールは目を虚ろにしながら口を開く。
「あぁ……。僕達を除けば、六つの傭兵団が雇わている」
「では、団の名前を教えて下さい」
「……『
私は、その全てを端末で脅威度評価に照会する。
「ふむふむ……『鋼刃』――脅威度評価Ꮯ。『マーダードッグ』――脅威度評価Ꭰ。『闇夜の霧』――脅威度評価Ꭰ。『真理の声』――脅威度評価Ꮯ。『シャンディガフ』――脅威度評価ᗷ。『ジルバキア傭兵団』――脅威度評価該当無し」
『シャンディガフ』以外は、これといった障害になりそうでは無い感じだ。
その『シャンディガフ』も、団員数が凡そ八十名と多い為、物量での評価ということのようだ。
気になるのは、該当無しと出た『ジルバキア傭兵団』とやらか。
「『ジルバキア傭兵団』の事は何か知っていますか?」
「……僕はよく分からないが、事前招集の際、雇用された全ての傭兵団の幹部が招集された。その時は、高位傭兵から順番に並んでいたようだった。
その時は僕達『幻狼』よりも、上座……皇国軍総司令のグレナディア・ブラドーの席に近い所に座っていた。
ということは、僕達よりも戦力が上という事だろう」
「団長の名前等は知っていますか?」
「それは、団長が聞いていたはずだ。……僕は知らない」
ふむ、彼等『幻狼』がこの度の重要戦力かと思っていたのだけど、少し認識を改めなければいけなそうだ。
「では、各傭兵団の配置を教えて下さい」
「あぁ……」
キールは、腕が折れていながらも地図に指を指す形で、配置を次々に教えてくれた。
『幻狼』は、やはりこの近辺の担当、『マーダードッグ』『真理の声』は、リノちゃんと顧問が向かった辺りの近くだ。……おそらく鉢合わせた可能性が高い。遭遇しても問題は無いだろうが。
『闇夜の霧』と『シャンディガフ』は、皇城の裏手……つまり今私達がいる場所からは皇都の反対側になる。これらとすぐに出くわす事は少ないだろう。この二つと『鋼刃』の相手は本隊に任せられそうだ。
そして、『ジルバキア傭兵団』は、此処から東……皇城と、皇国軍の駐屯施設アロゲートとの間といった所か。
「成程。わかりました」
私はもう一度、キールに異能を使う。
――
キールは虚ろな目を閉じながら、再び糸の切れた人形の様に、ばたりと倒れる。
このまま何も無ければ、五日程は意識を取り戻さない深い
「……恐ろしい異能だな。鮮血の魔女」
「あら、貴方も起きていたんですね」
ヴィランは、四肢を折られた痛みに顔を顰めながら、口を開いた。
「キールは、死んだのか?」
「いいえ、少し怖い夢を見るでしょうが、暫く……まぁ、この戦争が落ち着いた頃には目を覚ます筈です」
「そうか」
少し安堵の色を顔に出したヴィランは、大きく溜息を吐いた。
「……さっきの話は聞いていた。異能を使われずとも、お前の聞きたいことは話そう」
「ん〜……でも、嘘を吐かれたらわかっちゃいますよ? 嘘を吐いた瞬間、貴方とキールを殺しますけど、大丈夫ですか?」
「あぁ。……既に幻狼は死んだ様なものだからな」
ヴィランの精神に揺らぎはなく、腹を括った。という感じだ。
「『ジルバキア傭兵団』。その団長はシオン・オルランドという男だ」
「シオン・オルランド……まさか、あの
紅の黎明の前身、サフィリア・フォルネージュ率いる紅き翼と、スティルナ・ウェスティン率いる蒼の黎明。
その紅き翼にて、サフィリア団長の右腕を務めた男。シオン・オルランド。
「そう、あの『
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