第二十六話 皇都血戦 2 Side Rinon 

 

 先程探知した邸宅に辿り着くと、門の先の敷地にごろつきのような男が二人、機関銃を持って立っていた。


「一応、あれで見張りなんだろうね」


「練度は低そうですね。身体も絞られていませんし。あまり音を出さずに行きましょうか」


 アリアが指でカウントダウンを始め、それがゼロになった時、二人で塀に跳び上がり、お互い正面の男を標的にする。


 音も無く跳躍した私達に見張りの男達は全く気づいておらず、私達は揃って瞬く間に彼等の目前に肉薄すると、私は落下の勢いそのままに、脳天から股下に向け刃を閃かせ、その身体を両断する。

 アリアは自らの手を男の口にあてがい、声を出せないようにすると、背後に回り込み頸骨を圧し折り、倒した所で槍を心臓に穿った。


 一応辺りを確認するが、他に人が居る気配も、中にいる連中が私達に気づいた気配も無い。

 アリアに無言でアイコンタクトをすると、玄関の扉を静かに開ける。


 中に入れば、玄関口付近には敵は居ないようだった。

 屋敷はそこまで大きいものでは無く、二階建ての邸宅なので、全滅させるまで然程の時間は掛からないだろう。


 アリアはハンドサインで、自分は右に行くと伝えてきたので、それに頷き、私は左側へ敵を探しに向かう。

 薄暗い廊下を進むと、つきあたりに大きな扉があり、中から話し声が聞こえてきた。どうやらここはアタリのようだ。


 私は扉に前蹴りを放ち、盛大に扉を破壊する。

 これまで静かに行動してきたが、どうせここで戦闘が始まれば、屋敷全体に敵が来たことが知れるのだから、もはや構うまい。

 蹴破った扉の残骸に巻き込まれて、二人ほど吹き飛んだようだ。

 部屋はそれなりに広く、革張りのソファに座った男達がテーブルに食べ物を広げていた。

 どうやら英気を養っていたところだったようだ。


「何だテメェ! 紅の黎明ってやつか!」


 顔に傷のあるスキンヘッドの男が大きな声を張り上げてくる。他にも、それぞれオラついた様子で得物を手に取り威嚇してきた。


「ひいふうみい……丁度十人か」


 という事は、この部屋に十人、アリアの方に十人、上に八人といった所かな?

 これで、探知した人数と合う。


「何だって聞いてんだろうが!」


「煩いなぁ、私はリノン・フォルネージュ。よろしくね」


 挨拶が済んだと同時に、踏み込みと共に跳躍し、先程のスキンヘッド男のテンプルに空中で一回転し遠心力を乗せた爪先を叩き込む。

 頭蓋を割り、脳に爪先がめり込む感触と共にスキンヘッドを思いきり蹴り飛ばす。


「テメェ!」


 スキンヘッドの後ろにいた、季節外れのタンクトップを着た男と、その隣の筋肉質な男が拳銃を私に向けて構える。

 

「シッ!」


 鋭く呼気を吐くと同時に、私は地を這うように低く潜り込み、拳銃を向け伸ばした腕を二人まとめて斬り飛ばすと、返す刀でタンクトップと、筋肉男を腹から両断する。

 返り血を浴びる前に後ろに飛びすさると、髪を辮髪に結い上げた男が短刀を逆手に構え、奇声をあげながら、私の首を狙って斬りつけてくる。


「斬りかかるなら、静かにしたほうがいいと思うけどな」


 辮髪の手首を掴み力のベクトルを変え、辮髪自身の喉元に短刀を突き刺すと、私は地を割る様な踏み込みと共に肩から身体をぶつけ、盛大に吹き飛ばす。

 辮髪の背後で、散弾銃ショットガンを持っていた男を巻き込み、二人まとめて書棚に衝突させ、彼等はその下敷きになる。


 更に左右から、両手に小太刀を持った女二人が呼吸を合わせて斬りかかって来た。

 私は一歩下がり、敵が飛び込んでくる角度を変えると、腰から鞘を抜き太刀を右手、鞘を左手に構える。

 女二人は鋏の様に小太刀を交差させ、私の腕を狙ってきた。


「攻め方はいいと思うけど、どうせなら攻める高さを変えるべきだったね」


 交差した小太刀にそれぞれ太刀と鞘を打ち合わせると、女二人は更に押し込む様に身体を密着させてくる。

 これが仮に片方が首、もう片方が足とかを狙うようだったら、対処を変えさせられたところだった。


「死ねえぇぇぇ……!」


 二人がかりで小太刀を鋏の様に使い、私を押し込もうと唸りを上げる。


 ――水覇一刀流無刀術、零咬れいこう


 密着した態勢から肘を女達の心臓に当て、その場で踏み込み、相手の身体の内側に直接強力な衝撃を叩き込む。

 短く呻きをあげ、動きを止めた二人を振り払うと、女達は口から喀血し物言わぬ骸となった。


 私が鞘を腰に差し直していると、部屋の隅の方で、若い下っ端らしき男達三人が脅えたように私を見ていた。

 

「た、助けてくれ! 俺達はまだ団に入ったばっかりで……もう、俺達は皇都から出ていく! だから、頼むよ! 殺さないでくれ!」


 ──戦場に立つ覚悟も無い者達だったか。


「わかった。行っていいよ。その代わり、妙な素振りを見せたら容赦なく斬り殺す」


 少しばかり殺気を言葉に乗せれば、下っ端達は涙を浮かべながら逃げ出した。


「テメェら! 何逃げてんだコラァァ!」


 突然の怒声と共に、辮髪の男と書棚の下敷きになっていた散弾銃の男が下っ端達に向けて、散弾銃を発砲した。

 散弾が三人に撃ち込まれ、男達は悲鳴と絶叫をあげながら倒れ込む。

 私はコートのポケットから、小指の先程の大きさのベアリング弾を取り出し、散弾銃の男に向け指弾を撃ち放つ。


「じぃっ!?」


 散弾銃の男の側頭部に命中したベアリング弾は、貫通こそしなかったものの、頭蓋を割り脳に達したようで、男は奇妙な悲鳴を上げ絶命した。


 私は下っ端三人組に歩み寄ると、身体中のあちこちに散弾が食い込んでいた。

 三人のうち一人は当たりどころが悪かったようで既に事切れている。

 ――他の二人も、泣きながら呻き声を上げているが、時間の問題だろうか。


「……苦しむよりはいいだろう」


 私は二人の頸を一閃し、介錯をしてやる。


「運が悪かったとは思うけど、傭兵なんてこんな世界だからさ」


 (……だから、もし生まれ変わったりできたら、今度は傭兵なんてならずに普通に生きたらいいと思うよ)


 少しばかり目を閉じ、遣る瀬無さを押し流すと、私は部屋を出て二階に向けて歩みをすすめた。

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