#21 再認


#21 再認


「お二人ともー、ちょっと周りの目が.....」


二人を我に返らせたのは紗奈だった。二人は辺りを見渡すと、自分達に多くの視線が寄せられていることに気づいた。


「うぅっ...」


深結は変な声を出してその場にしゃがみ込む


「深結大丈夫?」

「深結大丈夫?」


颯太と紗奈もしゃがんで深結の顔を覗き込む。


「あー、顔赤くなっちゃったか」


紗奈が察したように言うと深結小さく頷く


「というわけだから、颯太あとは頼んだよー」


紗奈はそう言い残して帰って行った


深結は赤くなった顔を両手で覆っている


「深結、立てる?」


「...うん」


深結は颯太の手を掴んでゆっくりと立ち上がる


「行こっか」


「うん!」


今度は元気良く返事をした。



幸せだ。生きてて良かったと、心の底から思う。


「やっぱり私は颯太がいないとダメだ」


深結はニコッと笑って颯太の腕に抱きつく


「ありがとう」


「私こそありがとね、何度も助けてくれて」


「あたりまえだろ、彼氏なんだから」


「カッコいいこと言うじゃん」


「えっ...」


颯太は顔を逸らした


「あっ、颯太今照れてるでしょ?」


「そんなことねーよ」


「ほんとー?じゃあこっち向いて」


「それは...」


「ふふっ、颯太可愛い」

「ねえ、公園行こ」



二人は公園のベンチに座った。


「はじめてちゃんと話したのもここだったね」

「あの時はありがとね、あの日がなかったら私はきっと...」


颯太が深結の手にそっと触れる


「こっちこそ、ありがとな」


「ねー、颯太はどうして私を好きになったの?」


颯太は頬を赤らめる


「な..内緒」


「えー嫌、教えて」


颯太に顔をぐっと近づける


「すっ...素直なとこ..」


颯太は恥ずかしそうに目線を逸らす


「そうなんだ、ありがとう」


深結は微笑む


「今度はどこ行こっか?」


颯太はわざとらしく話を変える


「んーそうだなー、遊園地とか?」


「わかった、今度行こっか」


「うん!実はちょっと憧れだったんだよね、恋人と遊園地デート」


「他には?」


「えっ?」


深結はぽかーんとして颯太を見る


「他にも深結が憧れてるものとかやりたいこととか全部教えてくれ、全部一緒に叶えよう」


深結は黙ってしまった


「あっ..そのごめん」


颯太は慌てて謝る


「その..その.....」


深結は頬を赤くしてもじもじする


深結は颯太の耳に顔を近づけて耳打ちをする


「じ..地雷系の服..来てみたいっ..!」


「よし!じゃあ今度それ着て遊園地行くか!」


「うん!」


深結は笑った。満面の笑みで笑った。




帰り道


「明日さ、いつもの病院に行くんだけど...良かったら一緒に来てくれない?先生に颯太のこと紹介したいんだ」


「良いよ」


「ありがとう」


二人は手を繋いで歩いた。






翌日。放課後。


「緊張してるの?」


「べっ..べつに」


「あー図星だー!」


深結は颯太を茶化す。




「せんせー!来たよー」


「あら深結ちゃん、今日は元気そうね」


「先生!今日は紹介したい人がいるの!」


「えっ!もしかして..!」


「私の彼氏の成瀬颯太です!!!」


「君が深結ちゃんの彼氏さんか!いつも深結ちゃんから聞いてるよ。素敵な人だって」


「初めまして、成瀬颯太です」


颯太は礼儀正しくお辞儀をする


「うん!君なら深結ちゃんを任せられる!」


「ありがとうございます」


「二人とも良いカップルだね」


深結と颯太は頬を赤くする


「もー照れちゃって」


カウンセリングは颯太と一緒に三人でやった。



「先生ありがとうございました」


深結がそう言うと先生が外を見て驚いた顔をした


深結と颯太もつられて外を見ると


「お母さん!?」


深結は驚きで思わず声が出てしまった


先生が駆け足でドアを開けてお母さんを招き入れる


「お買い物帰りに通りかかったので覗いてみたら丁度出てきたので」


「こんばんわ」


颯太が挨拶をする


「颯太君もありがとね、うちの子に付き添ってもらって」


「お気になさらず、深結の彼氏なのでこれくらい当然ですよ」


「深結ちゃんに素敵な彼氏さんができて安心しました」


先生がお母さんに言う


「私もです。深結は昔から引っ込み思案だったから心を許せる人ができて本当に良かった」

「颯太君、良かったらうちで夕飯食べていかない?」


「ありがとうございます」


三人で病院を出て深結の家に向かう


「二人はお互いのどこが好きになったの?」


二人は立ち止まって見つめ合う


「私のことを肯定も否定もせずに只々共感してくれたとこかな」


「素直なところです」


「ふーん、たとえば?」


お母さんが颯太のことを見る


「たっ..例えば...その、自分の憧れとかやってみたいことを誰かにちゃんと伝えられることとか...」


颯太の頬に冷汗が流れていた


「その誰かっていうのは颯太君のことなんだろうけど、深結はなんて言ったの?」


「恋人と遊園地デートをしてみたいとか、じっ..」


「それはダメ!!!」


颯太が言いかけたところで深結が慌てて止めに入る


「え〜意地悪、私も知りたいな」


「絶対嫌!!二人だけの秘密なんだから!!!!」


「そっか、ならしょうがないね」


少し気まずくなりながら家に到着した。


「ご飯できるまで二人でゆっくりしててね」


二人はまた頬を赤くする。



深結の部屋



「颯太ごめんね、お母さんがいろいろ言って」


「面白い人だよね」




「もう一回言わせて」


空気が一気に静まり返る


「ごめんなさい」


「僕は何もされてないよ...?」


「ううん、した」

「この前久しぶり解離性遁走の症状が出た時に..」


深結は歩み寄って颯太の手を握った


私はあの時こう思った


"今の私が颯太の知ってる私じゃないのら、今の私も全部全部、颯太で染めてしまえば良い。"


「だからさ...しよっか」


深結は颯太の両手をぎゅっと握る


口と口が触れる


荒れた呼吸の音が鮮明に響く


「楽しいね」


深結が笑いかける


「うん」


私には颯太がいないとダメだと再認識する


「私ね、颯太のこと...」


深結は颯太の耳に口を近づける


「だーいすき」


「ぼっ...」


颯太の言葉を遮るように颯太の両頬に手を当てて、ゆっくりと顔を近づける。


さっきよりも深いキスをする。


体が火照る、でも止まれない。




「そろそろ終わりにしよっか」

「ありがとう颯太、なんかすっごく満たされた気がする」


「なら良かった」



「夕飯できたよー!」


リビングからお母さんの声が聞こえてきた


「行こっか」


二人は何事もなかったようにリビングに向かった。




「いただきます」

「いただきます」


手を合わせる


「美味しいです」


「ありがとう」

「颯太君の前だと深結ってどんな感じなの?」


「えっ...と..」


颯太が返事に戸惑っていると


「やめてよーお母さん」


「えー気になるじゃん」


「甘えん坊な時もあるしクールな時もあるし泣き虫な時もあります」


「言わないでー!!!」


深結は颯太の口を塞いだ


「あら照れちゃって」






「今日はありがとうございました」


「また来てね」


「はい!」


元気な返事をした


「颯太また明日ね」


「また明日」


手を振ってから玄関のドアを閉める。


深結はその場にしゃがむ


「どうしたの?」


「なんでもない、ちょっと...泣き虫がでちゃっただけ」


深結は目を擦って立ち上がると自分の部屋に駆け足で戻った。



紗奈に電話をかける


「もしもし紗奈、急にごめんね」


「良いよ、どうしたの?」


「すっごく嬉しくて」


「聞かせて」


「お母さんに颯太のことを紹介したの、そしたらすごい喜んでくれて」


「良かったね」


「たくさん迷惑かけてきたから、少しは親孝行できたな」


「お母さんも喜んでると思うよ」


「うん。最近ね、幸せなんだ。私」


「深結ならこれからもっと幸せになれるよ」


「じゃあもう死にたいなんて言えないね」


「深結....」


紗奈の声が潤んでいく


「もー紗奈泣かないで、私が悪い子みたいじゃん」


「だって..だってだって深結が......」


「何回でも言うよ、もう死にたいなんて言わない」


「もー、深結....ありがとう」


「へへっ...嬉しい」


「明日は学校来る?」


「久しぶりに行こっかな」


「わかった!じゃあ朝迎えに行くから待っててね」


「うん、ありがとう」


深結は電話を切った。

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傘を差すのが下手だから。 海音 @kaito_novel

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