#20 大切
#20 大切
「深結!やっと見つけた、良かった...」
紗奈はそっと歩み寄って深結を抱きしめる
「深結..大好きだよ、だから....死ぬなんて言わないで」
「私なんかって思ってる、今も。でも...私なんかでも好きって言ってくれる人がいて」
「もう...わかんないよ」
「そっか...そっか..」
「私は私になりたい」
「深結はもう、ちゃんと深結だよ」
10分くらいだろうか?それとも1分だろか?
それすらも分からないほど二人は抱きしめ合った
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」
二人の涙は止まっていなかった。それでも、二人は歩き出す
昏い空の下を手を繋いで歩く。
電車に乗って、家に帰ると
「深結、おかえり」
お母さんが優しく出迎えてくれた
「ただいま」
深結は返事をする
お母さんは少し驚いた表情したあとすぐに笑ってくれた。
「なんか楽しいな!」
深結は自分の部屋のベッドに飛び込んでそう叫ぶ
「颯太にも言わなきゃな」
少し小さくなった声で呟く。
颯太とのトーク画面を開いて文字を打つ
「好きだよ、大好き。」
無意識に声に出していた。
デリートを長押しして打った文字を消す。
伸ばしていた腕の力を抜いて大の字になる。
今さら許してなんて言わない。でも、伝えたい。私の声で。
翌日
紗奈に電話をかける
「もしもし紗奈、朝からごめんね」
「良いよ、どうしたの?」
「颯太とのことで...その..どう接したら良いのかな」
「うーん、思いっきりぎゅーって抱きつけば良いんだよ」
「もー、それができたら苦労しないよ」
「一歩踏み出してやってみたらなにか変わるかもよ?」
「うん..」
「あっ、あと今日はちゃんと学校行くんだよー」
「お前が言うな!」
紗奈に突っ込まれて深結は笑ってしまった。
「深結は今日学校来るの?」
「うーん、休みたいな...」
「わかった!じゃあ放課後会いに行ってあげるから待ってなさい!!」
「へへ...ありがとう」
「じゃあ一旦またね」
「うん」
深結はリビングに向かった。
「お母さん」
「ん?どうしたの?」
「あのさ...その..」
「今日も学校お休みしたいの?」
「..うん」
「良いよ、学校に連絡しとくね」
「あ..ありがとう」
「そのかわり..ちょっとだけお話ししない?」
深結とお母さんは向かい合うようにして座る
「深結はこれからどうしたい?」
「これから..って?」
「ほら、進路的な?」
「わからない、考えたくない」
また涙を流してしまう
「深結ごめんね、そんなつもりじゃ」
「お母さんごめんね、出来の悪い娘で」
「そんなことない、深結は私の自慢の娘だよ」
お母さんは深結の頭をそっと優しく撫でる
「昨日、死のうとしたの」
「うん」
お母さんは深結に合わせて頷く
「でもね、紗奈が...私が死んだら紗奈も死ぬって」
深結の涙は勢いを増す
「私.....紗奈にそんなこと言わせちゃった」
両手で顔を抑えて嗚咽する。
「今でも時々生きてることが分からなくなるの、でもそういう時は自分を傷つけると生きてるんだって実感できるの」
「深結、自分のこと嫌いにならないでね」
「ちょっと難しいかな」
深結は必死に笑った。お母さんのためじゃない、自分のためだ。
「ごめんね。でもこうでもしないと、またおかしくなっちゃう」
作り笑顔なんてすぐにばれるのだから、いっそのこと開き直れば良い
私は私でいないことに慣れてしまったんだ普通でいることに違和感を感じてしまうほどに
「そういえば、颯太君とはどうなの?仲良くやってる?」
「あっ...うん、仲良くやってるよ」
「ふーん、喧嘩でもしたな〜」
「べ..別に」
「もー、隠さなくたっていいのに」
実際のところ喧嘩とは違う気もするが似たような状況であるが故に動揺する
「でもね...私のことを"好き"って言ってくれる人がいるから、私は生きるの」
「そっか、じゃあ安心だ」
「お母さん、ありがとね。いっぱい迷惑かけたよね」
「子は親に迷惑かけて育つものなんだから、たくさん迷惑かけてね。お母さんだって深結くらいの頃はたくさん親に迷惑かけてたし」
なんて言って笑った。
深結は決めた。ちゃんと颯太と話そうと。
部屋で一人呟いた
「颯太、ちゃんと伝えるからね」
シャワーを浴びて、可愛い服を着て、最後に身だしなみを整えて可愛いヘアピンを一つつける。
「可愛いって言ってもらえるかな?」
鏡に映る自分に向かって言う
「言ってもらえるよ。だって今の深結すっごく可愛いもん」
「お母さん....」
深結は振り向いてじっとお母さんを見つめる
「大好き」
お母さんに体を寄せて服を握る
「ありがとう」
家出てから深結は考えた
自分なんかと思い続けてきた人生だった。自分の事も人生も未来もどうでも良かったんだ。ずっと目を背けてきた。なのにどうして今は?答えは知ってる。それにだけは絶対に目を背けたくない。
颯太と初デートで行ったいきつけのカフェに入る
「店長さん、久しぶりにお話聞いてくれませんか?」
「私で良ければ何時間でもお付き合いしますよ」
「ありがとうございます」
深結のその声は少しばかり震えている
「少々お待ちください、飲み物をお持ちしますね」
「あっ..ありがとうございます」
「お気になさらず、こういう時はお互い様ですから」
にこっと笑ってアイスカフェラテを差し出した
「いつもより多めにいれておきましたよ」
昔からこの優しい声を聞くと心が安らいだ。
深結は昨日のあった出来事を話した
「そんなことが...それは大変でしたね」
「でも深結さんなら大丈夫です」
「人間は弱い生き物です。でも人間には仲間がいます。深結さんにとってそれは紗奈さんや素敵な彼氏さんなんですよ」
「えっ..この前の子なら友達です......」
颯太と付き合ってることは紗奈とお母さんしか知らない。
「私ぐらいの歳になるとなんとなく分かるんですよ、深結さんはあの子のことが好きでしょ」
頬が赤くなる
「ほら、やっぱり」
店長さんは微笑ましそうに言った
「ありがとうございます、勇気がでました」
「いえいえ、常連さんのためですから」
優しく笑う店長さんを深くお辞儀をして店を出た。
深結は学校に向かった。
帰りのホームルームを終えて校舎から出てくるまで正門の前で待つことにした。
その間、深結は不思議な感覚を感じていた。
長いのか短いのかも分からないまま時間が過ぎていく。
やっとその時が来た。
「颯太!」
抱きついた。
他の生徒達の視線が一瞬で二人に向いた。
颯太は突然のことに少し戸惑った様子を見せながらも深結の背中に手をまわす
「深結、ありがとう....大好きだよ」
「ごめんね、酷いことしたよね」
「私なんか..」
深結が言いかけた時だった
「っ.....」
颯太が深結にキスをした
「この前のお返し」
「私なんか..」
深結が話し出すと、颯太がキスで止める。
「もー、颯太悪い子だなぁ」
頬を赤くする二人
「ずっと一緒にいたい」
深結は告げる。
何度も何度も遠回りをしてようやく辿り着いた答えは、思っていたよりもずっとシンプルだった。
「もちろん、ずっと一緒だ」
「颯太とならこの傷も愛おしくなるの。すごいよ颯太は、私をこんな気持ちにさせるなんて」
「笑ってる深結も傷ついた深結も、どんな深結も愛してる」
深結は何も言わなかった。言わなくても伝わると信じているから。
「きっと私はこれから何回も自分を見失って自暴自棄になると思う、だからその時はまた助けてね」
「もちろん」
お互いそれ以上何も言わなかった。言葉なんてなくなってこうしているだけで幸せなんだ。
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