#11 好き

#11 好き


土曜日。


「サロン・ド・テかぁ〜良いじゃん」

「で、その後は?」


「そのあと?...」


深結は首を傾げた


「もしかしてカフェ出た後のこと何も考えてないの?」


「うん」


深結が顔をきょとんとさせると


「もー!まさかそのまま帰る気だったの?!」


「う、うん」


「どこで告白する気だったの?」


「確かに、どうしよ!紗奈!」


「ふふーん、この私にまかせんしゃい!」


紗奈は誇らしげに言う


「まあ取り敢えず、サロン・ド・テに行きますか」


紗奈と行くとなんだか日常的で楽しかった


紗奈はアイスココアとチョコケーキ。

深結はアイスカフェラテとチーズケーキ


を注文しした。


「もしかして、普通にここに来たかったんじゃない?」


深結が訊くと


「ぎくっ!..」


わざとらしく口で効果音を再現した。


ふふっ。深結が小さく笑って言った


「なんか、楽しいな」

「最近、なんだかんだ言って毎日楽しい」


「なら良かった」


「上手くいく気がする、デートも告白も。ありがとう、紗奈」



「御注文の商品をお持ちしました」


店員さんが二人分の飲み物とケーキを器用に持ってきてテーブルに並べる


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


二人はお礼を言ってから飲み物を一口飲んだ


「おいしいね」


「ケーキも食べよ」



「てかもうすぐテストだよ」


紗奈がケーキを食べながら言った


「ちゃんと勉強してる?」


「ま〜ったくしてない!」


謎に自慢げに言う紗奈に


「私は教えてあげないからね〜」


と、ふざけ混じりに返す


「そこをなんとかぁ〜!」


両手を合わせて懇願する


「冗談だよ」


深結は笑いながら返した


「きっとうまくいくよ、デート」



「ずっと訊きたかったんだけど...どうして私と友達になってくれたの?」


「うーん...なんていうか、仲良くなりたいなって思ったからかな」


少し首を傾げて紗奈は言った


「ありがとう」

「紗奈がいなかったら私は今頃生きていなかったと思う。成瀬君とのことも紗奈のおかげ」


「全部...深結の努力だよ、私はそれをちょっと手伝っただけ」


「取り敢えずお礼に今日の分はおごってあげる!」


「ホント!?ありがとう!」


「ちょっと!紗奈、しーっ!周りの人こっち見てる!!」


深結は唇に人差し指をあてた


「ごめんごめん..つい。てへへ」


「そろそろ行こっか?」


「そだね」


二人は空の食器を綺麗に整頓してから席を立った。



帰り道。


「告白はこのあたりが良いかな?」


立ち止まったのは人通りは少ないが景色が綺麗な坂の上だった


「なんて言って告白するの?」


紗奈の質問に動揺することなく深結は答えた


「好きです、私と付き合ってください」


シンプルだ。ただ変に考えるよりもストレートに言う方が伝わるんじゃないかと思ってこれに決めた


「良いね、深結っぽい」


「なんかバカにしてないー?」


頬をぷくっと膨らませた


「してないしてない。ちゃんと伝わると思うよ、深結の気持ち」


「そうだと良いけど....」


深結は勢いこそあるものの、実際は上手くいくか不安だった


「もー!本番は明日なんだから、今さら不安に思っちゃダメだよ」


紗奈は元気づけるように深結の肩を叩いた。


二人はまた並んで歩き出した。



「良い報告待っててね」


別れ際にそう言った


「もちろん!じゃあばいばい。今日は早く寝るんだよ」


「うん!」


二人はお互いが見えなくなるまで手を振っていた。



深結は家に着いて自分の部屋に戻ると椅子に座って勉強机に肘をついて両手を組んだ


「頑張れ私頑張れ私頑張れ私」


と、自分に何度も言い聞かせた


「なにしてるの深結?」


「えっ!?」


お母さんに見られた。聞かれた。恥ずかしい、恥ずかしくて今にも爆発しそうだ。


「何を頑張るの?」


お母さんは何故か嬉しそうに訊いてくる


「こ..こっ..!告白!!」


言った、言ってしまった。もう後戻りはできない。


「頑張ってね!深結なら絶対上手くいくよ!!」


「う..うん」


「じゃあ明日はいつもより早起きして髪型とか可愛くしてあげる」


「ありがとう」



お礼を言うと深結は机の上の棚からルーズリーフと問題集を取り出して机に広げた


「勉強するの?」


「うん。成瀬君から勉強教えてって頼まれてカフェで一緒にお勉強することになって、その帰り道で告白するの」


「そっか、じゃあ訊かれたことなんでも答えられるようにしとかないとね」


「うん!」


深結は元気良く返事をして机に向かって集中した。


数学、英語、国語...世界史、化学、生物まで全てを復習した。


成瀬君の役に立ちたい、その一心で頑張った。


"好き"という気持ちはすごいものだ、それだけでなんでもできる気がしてくる。


好き。好き。ずっと一緒にいたい。


「ありがとう、颯太」

「待って私今なんて言った??颯太..もしかして今私颯太って言った??」


初めて下の名前で呼んだ。本人の前ではないとはいえなんだか恥ずかしい


思わず両手で顔を覆い隠した。明日が待ち遠しい。早く伝えたい、私の颯太への想いを知ってほいしい。


「好きだよ、颯太。私と付き合ってください」


自分以外誰もいない部屋に呟いた。

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