第33話 返事

 部屋で10歳の祖母がのびのび待っていたら、突然のノック音がした。誰かは分からない。


「中にいたら」


『どなた?』


『鍵を開ける前に、どなたですかって中から言う』


『配達ですっていろいろあるじゃん。わかんないけど』


 まさかの配達。たしかに祖母は生協を利用していて、毎週牛乳などを届けに来ている。自炊や買い物はせず、もっぱらサトウのごはんと冷凍食品のレンチンである。

 洋館で部屋から3階の高さと伝えていたのに、まさかの廊下にウーバーの人がやってくる想定である。

 部外者は外から見える門から入れないから!

 忍者の置き配【指定:3階奥の部屋の前】じゃないんだから!



『誰か来たには、違いないけど』


『どちらさまですか、なんでしょうかって、鍵を開ける前に聞く』


「お嬢様お食事です」


『食事持ってきてくれるの?』


『なら、私頼んでもないのにどこからですかって窓越しに聞いて』


『知っている。今だと例えば、生協さんとか何か色々あるじゃん』


『よし牛とか色々なところとか、どこどこであなたが注文したのが届きました』


『って言うんだったら、あっち行って、もらう。そうじゃなかったら』


『ただご飯持ってきただけじゃ、開けないね』


「ただ、コンコンってノックと、お嬢様、食事ですよー」


「っていう言葉だけで、それだけで待っている状態」


『私、注文した覚えはありませんから失礼しますって、無視する』


「無視。それは何、無言? それとも話しかける?」


『そう言う』


『私はそういうのを注文した覚えもないし』


『わたくし知りません』


 上品なお嬢様の風格が出る。


『玄関から部屋に、戻る』


「まあ玄関っていっても、当然部屋の……」


『同じかもしれない。ここのすぐそこで言ったにしても』


「あの、家じゃない。一軒家じゃなくて、そもそもだって、洋館だから」


「洋館の一室で寝てて、そもそもドアは」


「そもそもドアがかかっているかどうかもわからない」


『とにかくノックはしてくれた』


「そうだね、でしゃべったね。お嬢様お食事です」


「って言って、一回断られました。一回、頼んでないんですって」


「断られたら、どうしようかなー?」


 まさかここまで警戒しているとは思わなんだ。

 瞬間、はっと気づく。これは恐らく日常生活で培われたオレオレ詐欺対策なのだ。

 過去に二度もオレオレ電話で被害が出そうになったことがある。テレビでも高齢者詐欺の警戒はよく見る。

 若い人ではない独身高齢者だからこそ、自分の身は自分で守る防衛術が身についたのだ。


 カイジのエスポワールに投げ込まれたとしても、この警戒心があれば生き残れるかもしれない。


 正直、困った。何度目か分からないけど、こちらが想定した外の行動を繰り返してくる。

 執事の感覚だったらどう答えるのか、アドリブで考える。

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