第32話 窓の外の景色

「だけど意識は全部覚えてる」


「洋室でそこそこなベッド、そこそこの机、でも食べものはない」


『環境の良いところにいるでしょう?』


『年齢が低い、で記憶はある。で体がちっちゃいだけ』


『年が10歳なら、まあ、それぐらいが普通だから』


『良いのじゃない、そのまま』


『時間がたつまで、なにかを欲するまで』


『テレビがなければ、外を見るけど』


『天気も良く、外を見てもなんてことないし』


「見るとイメージとしては」


「3階建てぐらいの洋館から見たところには」


「もうすでに町並みがあって、奥にはちっちゃい一軒家がバババっと並んでて」


「当然通行してる人もちょこちょこ歩いてる」


「本当に行っちゃえば、降りればすぐ町にいける」


「当然、中には庭も見えるし」


「そこから門みたいなものがあって、出ることは多分できそう」


 洋館の自室の窓を見ると3階の高さで、庭、門、一軒家が見える。

 これでは引きこもり続けて話が進まないので、出られそうと伝えて誘導する。



『私どうも現実とコレ重なっちゃうんだけど』


『現実の私はお腹をすかなきゃ動かない』


『夜になって風呂を入らない。必要があるから風呂に入る』


『もうちょっと設定が厳しかったらなんか考えるけど』


『何の行動もできません』


 た、確かに。無人島で水・食糧・火がなければ必死に探す。

 だがここは安全で、無理して外に出る必要はない。

 日本ではなく洋館というサバンナ地帯、シマウマは常に死と隣り合わせなのだ。

 空腹になったから食べに行く、喉が渇いたから飲みに行く。

 あらゆる動物は、三大欲求と生理現象をきっかけに行動する。



『何にも用事ないもの、お腹が空くまで待つ』


「じゃあまあ、ほんとに待っていそうなら、待つ。で」


『誰かに親が何かしなさいって言われてるわけでもないんでしょ』


『親もいないのでしょ。タダ一人でしょ』


『自由じゃん! こんな自由はないわ。いいわー』


 もう10歳で若くて、快適ってだけで十分のようだ。

 86歳になると体の節々が常に痛いという。我々もいつかそうなるのだろう。



「そこで室内で適当に待っています」


「じゃあ突然ドアからコンコン、ってノックが」


「音がしました」


 突然の来客。敵かも味方かもわからない。

 ノックだけ考えれば身内の可能性が高いが、悪意ある暗殺者かもしれない。

 不用意に開けるなろう読者なら、即死ゲームオーバーの可能性だってある。


 さて、祖母はどう行動するか?

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