第26話 愛しい人

「偶然ね、さっきの誠さん似の騎士の人が口コミで来ましたと」


「ちょっと評判良いから、ここ切ってくれないか?」


「昔の誠さんに似てるんだけど云々って聞いてみたりはしない?」


『しないね』


『だって今現在、夫がいて子供がいて幸せなのに』


『昔ちょろっと頭のほうにあった人が来たとしてもなんともない』


『普通のお客さん』


『あなたかわいいから、付き合ってくれない? って言われれば』


『言われたら考えるけど』


『そうじゃなくて普通に来たら普通!』


「そっかー。じゃあ髪を切り終わりました。わかったと」


『ありがとうございました』


「帰り際に握手を求められたら」


『握手ならします、普通』


『じゃあまた、って言われたら変な人ねーと思いながら握手はする』



「今握手した瞬間に現実に戻りました」


「今、おばあちゃんが倒れている状態」


「また膝痛い状態」


「今、めざめました」


 無事? 異世界から帰還し、現実に戻ってくる。

 1時間予定であったが、右往左往して実際は2時間半。

 ゲームマスター泣かせの奔放展開で、無理くりこっちが誘導して帰還させた。


 途中の対話は割愛するが、騎士が彼女に違和感を持ち「確か前に会ったことないか?」と自発的に接触しても、「そうでしょうかね?」と返すそうだ。


 こうなると旦那が記憶喪失して待っているという設定の時点で、こちら側が詰んでいたのだ。



 ここからは、種明かしと完走した感想に入る。

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