自殺志願者が集まる島へようこそ
徳田雄一
命ってなんだろう
さぁ皆様。ようこそいらっしゃいました。
自殺志願島へ。
ここでは貴方が死ぬために未来の分岐を用意しております。
どんな死に方をしたいですか?
飛び降り?
服毒?
一酸化炭素中毒?
望む死に方を選びましょう。
そのために質問を五つ用意しております。
皆様の選ぶ質問の回答によって死に方が変わります。
さぁ。ご覧あれ。
どう命を投げ捨てるのか。望む死に方が出来るのかを!
☆☆☆
俺はブラック企業に務めている二十一歳。童貞陰キャの矢島健二と言う。
見て分かる通り俺の容姿は最悪だ。遺伝のせいなのかこの若さにして、バーコードハゲだ。
そして見るも無惨なほどのデブ。痩せようと思ったが、一向に脂肪が落ちず、痩せるのを諦めた。
周りからは汚物を見るかのような目で見られていた。
会社に行けば、女性社員からは半径3メートル以上は近づくなと言われるくらいだ。
なんでこんな容姿に生まれたんだろう。そう思っていた。
俺は今日。
マンションの八階に住んでることもあって、俺は飛び降り自殺でもしてやろうかと心に決めていた。
マンションのベランダの手すりに掴まり、飛び降りようとした時だった。鍵の閉めていない玄関の扉がガチャっと開く。
「……誰ですか」
「これはこれは矢島様〜」
「……は?」
「まずはこちらに来てくださいまし」
急に現れた、アロハシャツの男に俺は困惑していた。死ぬ覚悟も失せ、仕方なくその男の元へ向かった。
「ささ。矢島様」
「なんなんです」
「死のうとしてましたよね?」
「え、えぇまぁ。この容姿ですし、会社はブラックで生きる意味などないですし」
「なるほどぉ!」
そう言うと、アロハシャツの男は指をパチンと鳴らし、黒づくめの男たちを呼んだ。すると黒づくめたちは俺の身体をヒョイっと持ち上げ、黒い車に乗せる。
傍から見れば誘拐のようなものだったが、俺は何もやる気が起きない。ただされるがまま男たちに黙って着いて行った。
すると車は急に停車する。俺はどこへ着いたのかチラッと車の窓から景色を見ると、空港だった。
「え、あの?」
「私のプライベートジェット機である場所にお届けしますよぉ!」
黒づくめの男たちは俺をまた持ち上げ、次はジェット機内に運び入れる。すると周りには顔を暗くし俯く数人の男女が居た。
「こ、これって」
アロハシャツの男に問おうとした時だった。アロハシャツの男は機内のマイクを取り、話し始めた。
「皆様おはようございます。急に連れられビックリしたことでしょう。さっそくですが、あなたがたには死んでもらいます」
急に死ねと言われ、俺は言葉が出なかった。
ただの誘拐ではなく、死付きの旅行になる。
周りをちらっと見ると、皆はいい笑顔で男を見つめていた。するとアロハシャツの男は言葉を続けた。
「さて、今回は皆様に五つの質問を御用意してます」
「ど、どういうことですか」
「はーい。それは現地で!」
そういうと男は奥へと消えていった。すると綺麗な女性が横を通りながら食事を運んでくれていた。
「ビーフorチキン?」
「え、えとチキンで……」
それはそれは美味しそうなチキンだった。ほんのりジューシーで柔らかく口の中でほろけた。
〜数時間後〜
ジェット機はある島に着陸した。
黒づくめの男たちに降りるよう急かされながら、島に足を踏み入れた瞬間だった。アロハシャツの男は自分の名前を叫びながらこの島の説明を始めた。
「遅れましたが、私の名はケンと言います。以後お見知り置きを」
「……ケンさんはなんで俺らをここに?」
「いい質問ですね。では皆様にはまず自己紹介をしてもらいましょう!」
するとケンは指をさしながら1人ずつ指名して行った。
「わ、私の名前はユウコです。首吊りしようとした時にケンさんが現れてここに連れられました」
「ぼ、僕はリョウです。ODで死ねないかなって試そうとした時にケンさんがもったいないっていってここに……」
「あたしはツミコ。変な名前でしょ。これのせいでからかわれて虐められて、もう嫌になって腹に包丁でもぶっ刺して死んでやろうと思った時にこいつが」
三人の自己紹介が終えたところで、次は俺の番がくる。
「や、矢島健二です。飛び降り自殺をしようとした時、この人がきて……」
それぞれの自己紹介が終えたあと、ケンは少し涙ぐみながら話し始めた。
「みなさん辛い経験をされたことでしょう……私はそんな皆様を解放したくて連れてきたのです!」
「……何をするんだ」
「ではさっそく一つ目の質問です。生きるとはなんでしょう」
ケンから出された質問に俺以外の三人は即答で「地獄」と答えた。
「ふむふむ。おや。矢島様は?」
「えっと、生きるってのは死ぬことですかね……」
「ふむ。どういう事です?」
「し、死ぬために生きているというか……」
「素晴らしい」
ケンは俺を褒めた。久々に褒められたせいか、少し照れ顔になってしまっていた。するとケンはまたひとつ話し始めた。
「私たちは母の胎内から外へ出た瞬間から地上に堕とされた天使なのです」
「……はい?」
「私たちは選ばれたのです。生きるに値すると。ですがその命を投げ捨てる覚悟のある皆様には潔く死んでもらいます。先程矢島様が仰ったように生きるとは死ぬこと。これを実現してもらいます!」
言ってることがハチャメチャであり俺は困惑していると、二つ目の質問がくる。
「さ、皆様二つ目でございます。人生とは!」
すると俺以外の三人は悩み始めた。
俺は頭の中で出た答えを三人よりも早く答えた。
「じ、人生は無我夢中で生きたものこそ分かるもの……ですかね」
「……素晴らしい」
三人は一生懸命考えていたが、最終的には分からないという結果になった。
「では三つ目。あなたがたの理想の生き方とは」
「私は、モデルさんのような体型で、女優さんのような綺麗な容姿で、チヤホヤされながら生きること……」
「ツミコって変な名前をつける親に産まれないこと」
「僕は、僕が書いた小説や僕の書いた漫画が売れて、それだけじゃなくてレジェンドって呼ばれるくらいの人になる……」
するとケンはそう答えるリョウの胸ぐらを掴みあげる。
「君が努力すれば、もっと勉強すればそれは叶っていたかもしれないものであって、理想を語るには早いな」
「ひ、ひぃぃ……」
「ケ、ケンさんあの……」
「おっと失礼。矢島様。リョウ様」
俺はリョウに対する、ケンの態度に驚いていた。死なせようとする男の態度ではなかったからだ。
「で、矢島様は?」
「あ、はい。えっと理想という理想は全くなくて、ただ普通に生きたかった」
「というと?」
「容姿が悪くても、誰も罵らない優しい世界が欲しかった」
「なるほど」
ケンは拍手をしながら、四つ目の質問に移っていた。
「では次でございます。貴方にとって死後の世界とは?」
「僕は天国だと思う」
「私は死ななきゃ分からないから、死んでみて確認したい」
「あたしは分からないからパス」
ケンは鋭い眼光でこちらを睨みつけながら、俺の回答を待っていた。
俺は三人に対して語りかけるように言っていた。自分でも無意識のうちに。
「死んだ世界は無。だから死のうとしてるんだ。何も無い世界。ただ死ぬために」
するとケンを含め四人はただただ静かに頷いていた。
「素晴らしい。では最後の質問をしましょう」
「「「「はい」」」」
「死とは」
すると俺以外の三人は口を揃え答えた。
「「「幸せ」」」だと。
俺はそれでいいのか、その回答で合っているのか迷っていると、ケンはにこやかな笑みでこちらを見ていた。
「死は逃げ……?」
「というと」
「自殺していく人達は、今の生活や生き方、親や知人から逃げたくて死んでいく。逃げるという1個の選択肢……」
「ふむ。なるほど」
するとケンは黒づくめの男たちから武器を受け取る。たった一つだった。それで四人も殺せるのかと俺は不思議に思っていた時だった。
「今回死ねるのはたったおひとり。他の人たちは一生死ねないように、私の黒づくめたちを配置し監視致します」
「は……?」
ケンはそういうと語り始めた。
「私たちは自殺志願者の願いを叶えるために居ます。だが生と死について全くの理解もせずにただ死のうだなんて甘い考えは捨てなさい」
「ケン……さん?」
「私の娘はイジメにより自殺しました。私はその日から人を殺し続けました。死にたくもない人たちは永遠と死にたくないとほざく。必死に必死に足掻くんですよ。ちなみに私が殺した人たちはなんの罪も無い人です」
「な、何が言いたいんだ!」
「あなた達は違う。ただ死にたいとほざくだけで自分を変えようとしないリョウ。名前がきらーいからかわれたから嫌だ〜などとほざくツミコ。そしてモデルなどという無駄な理想を掲げ、それが叶わないからと命を捨てようとしたユウコ。命をなめるな!!」
ケンは物凄い剣幕で睨みつける。
「お前ら三人俺は覚えているぞ。うちの娘をイジメ自殺に追い込んだクソガキども!」
「へ……?」
「忘れもしない三年前。お前らは高校生だった頃、俺の娘である向田カノンをイジメで追い込んだ!」
「か、カノンのお父さん……?」
「ユウコ。テメェはカノンに何をした!」
「……モデルみたいな子だったから嫉妬から顔をカッターで……」
「リョウお前は!」
「……カノンちゃんが書いてた小説が面白くて嫉妬からそれを破り捨てた」
「……最後にツミコ」
「あたしは……」
「答えられねぇよな!」
何が起きているのか全く分からなかった。
俺はただ巻き込まれただけなのではないかと思っていた。だが、ふと俺の記憶にあの子が映る。
そう思っていた時だった。
ケンはツミコの胸ぐらを掴みあげる。
そして。
「ツミコ。お前はカノンの制服を皆の前で脱がし、あろうことか男たちに襲わせたよなぁ?!」
「ち、違う」
「何が違う!」
「あたしはただ……」
「もういい」
俺は何も言えず、ただケンを見ているしか無かった。
「あ、あの、ケンさん」
「あぁ。矢島様申し訳ありません」
「……」
「殺してあげますから」
「あの、ケンさん。カノンは……」
「え?」
「カノンはいい子でした」
「は?」
「カノンは俺と唯一話してくれる子で、優しく俺を包み込んでくれたんです。そんな子を助けられず申し訳ありませんでした」
「……」
「カノンが襲われていたあの日、俺は助けに入ろうとしたんですが、周りの女子に蹴られて」
「もういいですよ。矢島様。死んでください」
「は、はい」
ケンは日本刀のようなものを上に振り上げ、俺の首に下ろした。
望んだ飛び降り自殺では無かったが、一瞬で逝けた。ような気がした。
心の中でケンにありがとうと言いながら、カノンにごめんと囁きながら、薄れゆく記憶。
☆☆☆
「さぁ、あとはお前らだ……」
「い、いやだやめて!!」
「じゃあな」
そういい、ケンは三人を牢に閉じ込め、毎日のように注射を打ち、苦しみもがく姿をビデオに撮った。
そして数十年後。ツミコ、リョウ、ユウコの三人が苦しむ姿を全世界に流した。
「これが私の復讐だぁぁ!!」
ケンは即捕まり、死刑囚となった。
ツミコ、リョウ、ユウコの三人は手遅れだった。
☆☆☆
これはある一人の復讐劇だった。
愛する娘を失った男がイジメがどれほどの憎しみを生み出すのかを世間に叩きつけた。
史上最悪の事件。
そして史上最高に娘を愛した男の物語。
自殺志願者が集まる島へようこそ 徳田雄一 @kumosaki
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