第116回 君の顔では泣けない その1
「君の顔では泣けない」は、
今のところ実写化等はされていませんが、「王様のブランチ」で取り上げられ、先日所沢サクラタウンに行った時に、ダ・ヴィンチストアで「推し活」されていました。
以前、「僕産み」の参考図書として取り上げました。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927863361809711
「男女入れ替わり」の物語ですが、たいていの入れ替わり物は一時的に入れ替わっても、すぐに元に戻ります。でも、この作品はなんと15年が経過し、これからも入れ替わったままであろう事を匂わせたまま完結します。
—―十五年前。俺たちの体は入れ替わった。そして十五年。今に至るまで、一度も体は元に戻っていない。—―(君の顔では泣けない P.16)
こんなに長期間入れ替わったままというお話は他にはあまりないですね。主人公の男(体は女)は結婚して子供まで生まれています。
—―ズボンと下着を脱いで便座に腰掛ける。今思えば目の間に
すると、
くらくらと
水村の母親が慌てて駆け寄ってくるまで、俺はひとり廊下で丸くなって泣いていた。—―(君の顔では泣けない P.19)
うわ~何て生々しい生理の描写でしょうか。角川でこれが大丈夫とは意外ですね。「僕産み」を修正している時にも思ったのですが、割と淡々と描いているのならば大丈夫みたいです。
しかし、ここまでリアルにしておきながら、出産シーンが全くなかったのはちょっとがっかりしました。
後でセックスシーンは少し出てきます。
性表現がどこまで許されるか、かなり参考になります。
—―答えながら、俺の声ってなんか気持ち悪いな、みんな気持ち悪いって思いながら聞いていたのかな、なんて思っていたら、「私の声ってこんななんだ」と水村がぽつりと呟いた。—―(君の顔では泣けない P.24)
「水村まなみ」は、主人公と入れ替わったヒロインの名前です。
ここは男女入れ替わりの話ですごく参考になりました。たしかに普段自分が聞いている声と、周りに聞こえる声は違いますからね。
—―そのすぐ隣には水村がいた。俺が
入れ替わりのきっかけはよくあるパターンですね。階段落ちではなくプール落ちですが。
—―「お前、俺の裸見てないだろうな」
(中略)
その言葉に一気に顔が熱くなる。うわあまじかよお、と小さく叫んで手のひらで顔を覆った。まだ家族以外の異性には誰にも見せたことがないのに。こんな形で見られることになるなんて。屈辱にも似た
(中略)
「ごめん、それは俺だけじゃなくて、水村もだよな。俺も、できるだけ見ないようにしたから」—―(君の顔では泣けない P.28)
主人公はかなり恥ずかしがり屋で、草食系男子です。入れ替わった事にとても動揺して冷静ではいられません。
これに対してヒロインのまなみはすごく冷静です。
生理が始まったばかりで、主人公の体を気遣うくらいの余裕があります。それだけ大人なのでしょう。
—―「え、なに、お前彼氏いるの」
「いるよー。べつの高校で、二つ上だから今高校三年生かな。っていっても、まだつきあって三ヶ月くらいだけどね」
(中略)
「うわ、なんだそれやらしいなあ。どうせエロいメールばっかしまくってんだろ。ヘンタイだ、ヘンタイ」
そんな俺の幼稚な冷やかしに、水村は顔を赤らめて
「そんなことしてないよ。私たち、キスとかもまだだし」—―(君の顔では泣けない P.35)
まなみは主人公よりもかなり進んでいますね。キスもまだとはいえ、ちゃんと彼氏もいます。
主人公は童貞どころか、家族以外に裸を見せた事がないのです。
—―それが、俺の水村まなみとしての長い人生の始まりだった。もちろんその時は、そんなことはちっとも思っていなかったけど—―(君の顔では泣けない P.38)
この時点ではまだ戻るための悪あがきをしたりしていました。
まさか15年経過しても入れ替わったままだとは思わなかったでしょうね。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第117回も引き続き「君の顔では泣けない」です。お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます