第103回 はじめての その3
続きです。
次は森絵都の“はじめて告白したときに読む物語”「ヒカリノタネ」です。個人的に「はじめての」で一番好きな作品です。
幼馴染みの
この作品はYOASOBIが「好きだ」という曲にしました。
https://www.youtube.com/watch?v=_WVXrDmm-P0
残念ながら
—―取り返しのつかないものを取り返す。
そのために私は旅立った。
目もくらむほど遠い
私の重いを、もう一度、彼にとって初めてのものとするために。
彼への思いを、もう一度、私にとって初めてのものとするために。—―(はじめての P.146)
主人公の由舞は、幼馴染みの椎太が好きで、今まで3回も告白して振られています。普通ならばとっくにあきらめていてもおかしくありません。でも、由舞はあきらめず4回目の告白をする事を決心します。しかし、普通に告白しただけでは玉砕必至です。そこで、過去に戻ってかつての告白をなかったものにしようとします。
過去の告白は、この時点では由舞にとってなかったものとしたかったのです。なぜなら、同じ相手への告白だから回数を重ねる程インパクトが弱まると考えていたからです。
また、告白する側としてはどんどん重くなってしまい、しんどくなる。更に好きも嫌いもわからない頃に告白したくなかったという気持ちもありました。
—―「私、タイムトラベルの手伝いをしてくれる人、知ってるんだけど」—―(はじめての P.158)
由舞は、友達のヒグチの紹介で、タイムトラベルで過去の告白をなかったものとすべく、奔走します。
—―「だから、これまでの告白をなかったことにして、まっさらな自分にもどりたい。重すぎる過去を
—―(はじめての P.173)
由舞は思惑通り、一見すると過去の告白をなかったものにする事に成功します。ところが……
—―私は、告白するたびに椎太にしばられて、世界を小さくしていったんじゃない。その裏でちゃんと別の世界を育ててきた。椎太のおかげでたくさんのきらきらした宝物を見つけた。—―(はじめての P.211)
過去3回の告白には、由舞が考えもしなかった重要な意味があったのです。十年前の告白では「柿ピー(柿の種とピーナツの略)」という心のやすらぎが手に入っていました。
五年前の告白では、「ワンピース」という元気のもとと出会っていました。
そして、三年前の告白では、部活をはじめて本気でバレーにのめり込み、椎太以外のことで泣いたり笑ったりできるようになりました。
由舞は告白をなかったものとすることで、これらのかけがえのないものをなくしたと思い込んでいました。ところが……
—―「過去のあんたをなめんな。小六のあんたは、池からはいあがって、椎太に告白したんだよ。中二のあんたも、ゾンビばりのド根性で起きあがって、
なんと、一見告白をなかったものとしたと思ったら、実はそうではなかったのです。
まず、最初の告白(順番としては最後に)をなかったものとすることは失敗しました。
そして、2度目の告白では由舞は未来から来た由舞に池に突き落とされてもめげずに告白し、3度目の告白では未来から来た由舞が出した足につまづき、起き上がる事が出来ないくらいのダメージを受けていたにもかかわらず、告白したのでした。
由舞の根性と友達思いのヒグチが泣かせますね。
—―「で、どうする気? 四度目の告白」
「もちろん、決行あるのみです。ここでひるんだら過去の私に示しがつきません」—―(はじめての P.217)
カッコいいですね~
—―「だから、これまで言われてばっかだったけど、今日は俺から言わせて。坂下、俺……」
四度目の告白をしそこなったこの日、私は初めて告白をされた。—―(はじめての P.220)
なんと、過去三回の告白は止めそこなったあげく、最後の告白は相手からされるというハプニング。なんというハッピーエンドでしょう。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
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よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら? 例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713
次の第104回は「ドクターホワイト 神の診断」の秘密に迫ります。お楽しみに。
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