第98回 文豪たちの口説き本 その1

「文豪たちの口説き本」は小説ではありません。太宰治等の文豪たちがどんな恋をしてきたのかをまじめに解説した書籍です。やはり執筆の参考になるかと思い、ここで取り上げます。


 まずは太宰治です。言わずと知れた文豪。著作として「走れメロス」「人間失格」「斜陽」等があります。「ダメ男かつモテ男」だったそうです。


 妻がいながら水商売の女性を口説く等、女遊びがすごかったそうです。また、女性に限らず、いわゆる「人たらし」だったとの事。佐藤治夫に対し「芥川賞をください」と懇願しています。


 最後は愛人の山崎富栄と入水自殺するという、壮絶な人生です。山崎富栄は現代でも女優になれそうな超美人だと思います(個人的に)。


—―死ぬ気で恋愛してみないか—―(文豪たちの口説き本 P.16)


 山崎富栄を夢中にさせた言葉だそうです。


—―僕の晩年は、君に逢えて幸せだったよ—―(文豪たちの口説き本 P.21)



 次は中原中也。結核性の脳膜炎で30歳の若さで死去するまでに350篇以上の詩を残した詩人です。「汚れつちまつた悲しみに……」は高校の時の教科書に載っていました。


 この人は現代でも俳優になれそうなイケメンですね(これまた個人的に)。太宰治が天才だけれども苦手とした人物だそうです。相当とんがっていたんだとか。「素直になれない中也」と称されています。


—―僕の部屋に来ていてもいいよ—―(文豪たちの口説き本 P.30)


 劇団が解散して行く当てのなかった長谷川泰子を誘った言葉だそうです。これをきっかけに二人は同棲を始めます。


—―これは誰にも見せない、

あいつにも見せないんだけど、

僕が死んだら、あいつに読ませたいんです—―(文豪たちの口説き本 P.37)



 次は芥川龍之介です。「鼻」「杜子春とししゅん」「羅生門」等。杜子春は教科書に載っていました。35歳の若さで服毒自殺しています。


 芥川龍之介の自殺報道の直後から、その死にショックを受けたと思われる若者たちの後追い自殺が相次いだそうです。


 そして、死の8年後、親友で文藝春秋社主の菊池寛が、芥川の名を冠した新人文学賞「芥川龍之介賞」(芥川賞)を設けました。もちろん今も続いています。


 恋愛に対しては非常に素直だったようです。「大甘な口説き方」と称されています。


—―ぼくはこのごろ、ほんとうにお前がわすれられなくなった、今まではお前のからだをぼくのものにしないのをざんねんに思っていたが、今はそんな事はどうでもいい。ただぼくが心のそこからお前をかわゆく思うように、お前もぼくの事を思ってくれたらそれでたくさんだ。—―(文豪たちの口説き本 P.61)


 芥川龍之介から女中の吉村千代へ送った手紙です。純愛ですな。この頃にも「かわゆい」という言葉があったのですね。


 千代が内容を理解しやすいように、ひらがなを多用したのだそうです。やさしいですね。


—―(こんな事を、文ちゃんにあげる手紙に書いていいものかどうか、知りません。)貰いたい理由はたった一つあるきりです。そうして、その理由は僕は、文ちゃんが好きだと云う事です。勿論昔から好きでした。今でも、好きです。その外に何も理由はありません。僕は、世間の人のように、結婚と云う事と、いろいろな生活上の便宜と云う事とを一つにして考える事の出来ない人間です。ですから、これだけの理由で、兄さんに、文ちゃんを頂けるなら頂きたいと云いました。そうして、それは頂くとも頂かないとも、文ちゃんの考え一つで、きまらなければならないと云いました。

僕は、今でも、兄さんに話した時の通りな心もちでいます。世間では、僕の考え方を、何と笑ってもかまいません。世間の人間は、いい加減な見合いといい加減な身もとしらべとで、造作なく結婚しています。僕には、それが出来ません。その出来ない点で、世間より、僕の方が、余程高等だとうぬぼれています。

兎に角、僕が文ちゃんを貰うか貰わないかと云う事は全く文ちゃん次第で、きまる事なのです。僕から云えば、勿論、承知して頂きたいのには違いありません。しかし、一分一厘でも、文ちゃんの考えを、無理に、動かすような事があっては、文ちゃん自身にも、文ちゃんのお母さまや兄さんにも、僕がすまない事になります。ですから、文ちゃんには、まったく自由に、自分でどっちともきめなければいけません。万一、後悔するような事があっては、大へんです。

僕のやっている商売は、今の日本で、一番金にならない商売です。その上、僕自身も、ろくに金はありません。ですから、生活の程度から云えば、何時までたっても知れたものです。それから、僕は、からだも、あたまもあまり上等に出来上がっていません。(あたまの方は、それでもまだ少しは自信があります。)うちには父、母、伯母と、としよりが三人います。それでよければ来てください。

僕には、文ちゃん自身の口から、かざり気のない返事を聞きたいと思っています。繰返して書きますが、理由は一つしかありません。僕は、文ちゃんが好きです。それだけでよければ、来てください。—―(文豪たちの口説き本 P.71、P.72)


 これは、芥川龍之介の妻となる塚本文への手紙です。熱いですね。


 それから、この時代も小説家が食べていくのは大変だったのでしょうか。



 次は萩原朔太郎です。「日本近代詩の父」と呼ばれている偉大な詩人です。私と同じ群馬県出身。やはり教科書に掲載されていました。


 詩集「月に吠える」は、ヨルシカがこれをモチーフにした曲を出しています。


 この人はなんと北原白秋の事が好きだったようです。「詩人たちの熱狂」と称されています。


—―北原白秋様

 わずかの時日の間にあなたはすっかり私をとりこにされてしまった、どれだけ私があなたのために薫育くんいくされ感慨されたかということをあなたには御推察出来ますか、朝から晩まであなたからはれることが出来なかった私を御考え下さい、一日に二度も三度も御うかがいしてお仕事の邪魔をした私の真実を考えてください、夜になれば涙を流して白秋氏にあいたいと絶叫した一人のときの私を想像してください、—―(文豪たちの口説き本 P.88)


 「句読点」の使い方はすべて原文ママです。この人はとにかく独特の文章を書くそうで、明らかな誤りは訂正して掲載したとの事。それにしても没後にこのようなラブレター(?)が一般の人達に周知されてしまうのは、私なら絶対に嫌ですね。


—―北原さん、僕んとこへ来てください、やっぱり女より男がいい、男の方がすきだ、僕は哀しくて仕方がないんです、あした朝一番で前橋へきてください、僕は少しもよって居ません、本気です、—―(文豪たちの口説き本 P.92)


 いや~ストレートですね。でも白秋の方はというと、女性に夢中のようです。福島俊子への手紙が掲載されています。


—―俊子さん、もう泣かないで私の方へ元のように帰ってお出で、私の美しい大きな目をご覧なさい、何時もお前をかわいいと睨んでいるではないか。

 俊子、俊子、私は今夜はどうかしている、まるであやしい夢でも見てるようだ。 隆 わがとし子に《略》

—―(文豪たちの口説き本 P.92)


 この本を読むと、文豪達も普通の人間なのだという事が良く分かります。イメージが変わりましたね。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。



 次の第99回も引き続き「文豪たちの口説き本」です。お楽しみに。

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