第69回 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら その3

 続きです。


――「先生が、三人目の伝説の存在になるのです。先生のお話、とても興味深く聞かせていただきました。『送りバント』と『ボール球を打たせる投球術』、面白いですね。それを捨てることによって、もしかしたら、高校野球は変わるかもしれません。もしかしたら、高校野球にイノベーションを起こすことができるかもしれません。先生が、伝説の名将として、後々まで語り継がれるようになるかもしれません。だから、まずはどうやったら『送りバント』と『ボール球を打たせる投球術』を捨てることができるか、来週までにその方法を文乃と一緒に考えてきてください」――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.149、P.150)


 みなみは、監督である加地の強みを生かす事にも取り組みます。一方で、陸上部のキャプテン、児島沙也香から「なぜ野球部が熱心に練習するようになったのか」を聞かれた事をきっかけに、部活動のコンサルタントを始めました。


 更に、学校の問題児達に声をかけ、野球部のマネージャーとして迎え入れます。


――またそこで、せっかくなら野球部を甲子園に連れていこうと考えた。そうすることで、夕紀に喜んでもらおうとしたのだ。あるいは、もし野球部が甲子園に行ければ、夕紀もそれに勇気づけられ、病気が全快するかもしれない――そんなふうにも考えた。

 だから、みなみは野球部のマネジメントに全力で取り組んできたのである。彼女にとっては、野球部を甲子園へ連れていくことが、夕紀への恩返しであり、また彼女の病気を治すことでもあったのだ。――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.166)


 みなみは、野球に対してわだかまりを持っています。というのも、みなみは素晴らしい野球の実力を持っており、幼い頃はプロ野球選手を目指していたにもかかわらず、プロにはなれない事に絶望していたからです。


 夕紀は、そんなみなみを元気づけてくれた恩人だったのです。その夕紀の体調が悪化し、手術する事になりました。


――加地は、正義に10番の背番号を手渡すとこう言った。

「おめでとう、新キャプテン」

 すると正義は、やっぱり顔をこわばらせたまま、それを恭しく両手で受け取った。

 その時だった。突然、部員たちの間から拍手が湧き起こった。しかもそれは、おざなりなパラパラとしたものではなく、熱く、心のこもった、大きな音のものだった。

 それで、感極まった正義は、込みあげてくるものを抑えることができず、もらったばかりの背番号で顔を覆った。すると、そんな正義を面白がって、部員たちの拍手は一段と大きくなった。おかげで正義は、その背番号からなかなか顔をあげることができなかった。

 そんな正義を見つめながら、みなみは不意に、「このチームは甲子園に行く」ということを予感した。――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.195、P.196)


 新キャプテンとなった二階正義は、もともと選手としてレギュラーを目指してがんばっていました。が、マネージャーに転身し、みなみと共に裏方として活躍しました。起業家志望の正義は、様々なアイデアを出して野球部の実力アップに貢献しました。その功績が認められてキャプテンとなったのです。


 みなみの予感の通り、程高は夏の大会で快進撃を続けました。


 そして決勝戦前日。夕紀が危篤状態に陥り、野球部のメンバー全員が病院にかけつけます。でも、既に意識はなく、そのまま息を引き取ります。


 みなみは、夕紀のために必死でマネジメントに取り組んできました。その夕紀を失って、みんなの前で本当は野球が嫌いだと爆弾発言した上、逃げ出します。


 物語後半で野球部は大ピンチに陥りました。残りわずかでどうなるのかハラハラします。


 必死でみなみを追いかける文乃。


――それで試合は終了だった。5対4のサヨナラ勝ちで、程久保高校の逆転勝ちだった。

 その勝利を見届けた瞬間、祐之介はバンザイをすると、その場に崩れ落ちるようにひざまずいた。すると、ベンチから飛び出してきた部員たちが、次々とその上に覆い被さっていった。


 文明がホームインするのを、みなみは呆然と見ていた。それから、ベンチの部員たちが次々と飛び出していくのをぼんやりと見送った。次郎もあっという間に飛び出していき、祐之介に抱きついていた。目の前では、選手の中ではただ一人ベンチにとどまった正義が、加地と抱き合っていた。

 それらを見ながら、みなみは複雑な思いに悩まされていた。自分が、嬉しいのか、悲しいのか、喜んでいいのか、泣けばいいのか、どうしたらいいのか、全く分からなかったからだ。

 だから、呆然としたまましばらくその場に固まっていた。その場に石のように固まって、しばらく身動きできずにいた。

 そんなみなみに、横から文乃が抱きついてきた。文乃は、すでに泣きじゃくりながら、みなみに向ってこう言った。

「みなみさん、やっぱり逃げなくてよかったですね!」

 それを聞いて、みなみは不意に、おかしさが込みあげてくるのを感じた。そうなのだ。みなみを追いかけてきた文乃は、病院を出てから三十分も追いかけてきたところでようやく捕まえると、こう言ったのだ。

「みなみさん。逃げてはダメです。逃げてはダメです」

 それで、みなみは唖然とさせられた。そのセリフを、まさか文乃から聞かされるとは思ってもみなかったからだ。

 しかし、それで力が抜けてしまって、逃げる気力が失せてしまった。そうしてそのまま、引きずられるように、この球場まで来たのだった。

――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.263、P.264)


 かつて文乃は、みなみに質問された時に逃げ出した事があったのです。そんな文乃が逃げ出したみなみをつれ戻す程成長しています。これはみなみのおかげでした。


 みなみのそれまでの「真摯な」がんばりが、最後になげやりになってしまったみなみさえも、球場に戻す原動力になったのです。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


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https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713



 次の第70回は「夫のカノジョ」の秘密に迫ります。お楽しみに。

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