第70回 夫のカノジョ
「夫のカノジョ」は、垣谷美雨の小説です。最近すっかり垣谷ファンと化しています。女優の川口春奈と鈴木砂羽のW主演でドラマ化されています。
主人公の小松原
最近、「僕産み」こと「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!!」の参考として、色々な「入れ替わり小説」を読んでいます。これもその一つです。
川口春奈と言えば、多くの主演作のある人気女優です。この作品の他にもドラマ「着飾る恋には理由があって」でも主演しています。
鈴木
—― 履歴ボタンをクリックしてみると、夫が昨夜検索したサイト名がずらりと表示された。『こだわりの新築マンション特集』やら、『住宅ローン減税のある今が買いどき』やら、『あなたの希望にピッタリの中古物件』など、様々なサイト名が並んでいる。
そんな中に、『星見のひとりごと』という異質なものが紛れているのに気がついた。
なんだろう、これ。
クリックしてみると、ハムスターのイラストで囲まれたかわいらしい画面が現れた。—―(夫のカノジョ 文庫版 P.11、P.12)
ネタバレですが、菱子は、このブログ主の星見を夫の浮気相手と勘違いします。ブログの内容と、この後菱子は夫を尾行するのですが、その時の状況と相まって誤解するのです。
でも、よく考えてみたら夫婦共用パソコンなのに、浮気相手のブログの履歴を消し忘れるというミスはちょっと考えられないと思わなかったのでしょうか?
—―「菱子のダンナさん、浮気してんの?」
「どうやらそうみたい。相手は会社の女の子。もうどうしたらいいのか……」
「どうもしなくていいんだよ。何も見なかったことにしな」
「えっ?」
(中略)
「今まで言わなかったけど、実は私、離婚したことを後悔してんだよ」
(中略)
「でもね、離婚して初めてわかったよ。大切なのは心じゃなくてお金だってこと。お金のない暮らしがどんなに惨めか、生まれて初めて思い知った」
「やめてよ。今の世の中なんでもかんでもお金お金って。千砂までがそんなこと言うなんて……」
「菱子、あなた甘い。離婚してもいいのは、キャリアウーマンか、そうじゃなければ、温かく迎えてくれるリッチな実家がある場合か、それとも一生食べていけるくらいの慰謝料をもらえる場合だよ。そのどれでもない女は、結婚て形態をなんとしてでも続けていくべきなんだよ。食べさせてもらえるだけでも、本当はありがたいことなんだから」—―(夫のカノジョ 文庫版 P.38、P.39)
完全に誤解してますね。そんな中で、菱子は浮気相手(?)と直接対決を決意します。
ここから星見目線になります。
—―「あなた、会社以外でも主人に会ってるでしょう?」
「うん」
「あなたの部屋にも行ってるわよね」
「うん……ごめん」
「これからどうするつもりなの?」—―(夫のカノジョ 文庫版 P.58)
あらあら。これじゃますます誤解が深まるばかり。もっとストレートに「夫と不倫してるでしょ」とでも言っていれば誤解しないですんだのに。
—―「なんなの? あなた誰? あなたは私? えっ、じゃあ私は誰?」
「ほれ、見んね。どがん?」
ババアが大きな手鏡を差し出したので、二人並んで鏡に顔を映してみた。
「嫌だ、なんなの、これ!」
奥さんが叫んだ。
わけのわからない恐怖であたしの身体ががくがくと震え出した。
「奥さん、あたしが……奥さんになってる。どういうこと?」
自分の手を見た。小さな手だった。ぽっちゃりした指に結婚指輪がはめてある。
「入れ替わったの? どうして? おばあさん、いったい何をしたのよ」
言いながら奥さんが立ち上がった。—―(夫のカノジョ 文庫版 P.63)
菱子は、星見が夫の浮気相手と誤解したまま、星見の身体と入れ替わってしまいました。
まさかこれがお互いに良い結果をもたらすとは、この時点では考えてもいなかったでしょう。
—―「ねえママ、家庭科のエプロン、明日までだからお願いね」
実花が拝むように顔の前で手を合わせた。
(中略)
「うるせえなあ。自分のことは自分でやんな。あんた、もう中三なんだろ!」—―(夫のカノジョ 文庫版 P.91~P.93)
菱子は子供を甘やかせ過ぎていました。子供の頃親に甘える事の許されなかった星見は冷たく突き放します。これが実花の自立心を養う事になるのです。
—―「それにしても、星見ちゃんがこんなに普通の人だとは思わなかった」
茉莉子先輩が食後の紅茶を飲みながら、しみじみとした調子で言った。
「私もびっくりしちゃいました」
言いながら香織が見つめてくる。
「あのう……普通の人というのは、どういう意味で?」
「先週までの星見ちゃんは、とっつきにくかったわよ。ねえ、香織ちゃん」
「とっつきにくいどころか、正直言って恐かったです」
「恐かった? というと?」
「香織ちゃんの言い方、決して大げさじゃないわ。カミソリみたいというのかな。ちょっとしたことでキレそうな感じがして、できれば関わりたくないと思ってたもの」
(中略)
「星見ちゃん、何かあったんでしょ?」
「きっと恋ですよ、恋。白状しなさいよ」
茉莉子先輩と香織は顔を見合わせて微笑んだ。
とんだ思い違いだが、身体が入れ替わったとは夢にも思っていないようで、少し安心した。—―(夫のカノジョ 文庫版 P.150、P.151)
どうやらこちらも期せずして良い影響があったようで。
—―「では、ちょっと言わせてもらいます。私は、大東亜製粉のパスタソースシリーズのどれも好きではありません」—―(夫のカノジョ 文庫版 P.160)
菱子は、主婦の経験で夫の会社のパスタソースに的確な批判をして、これが星見の社内での株を上げる事になります。
—―「ぶっちゃけた話、どうしてもフラダンスがやりたいっていうんなら、会長と副会長だけでやりゃあいいんじゃねえのかしら? これ、皮肉じゃないんですのよ。だって、やりたいことはやった方がいいと思いますので。でもね、仕事持ってて忙しいママさんたちは勘弁してやんなよ」—―(夫のカノジョ 文庫版 P.172)
こちらはこちらで、事なかれ主義でPTAで言いたい事も言えなかった菱子に変わって、ズバズバものを言う星見のおかげで菱子の株が上がるのでした。
—―「何って……週に二回も山岸さんのマンションで、小麦粉や加工製品の知識を小松原課長に教えてもらってただろう。そのことだよ」
「ああ……あれね」
もしかして、自分はとんでもない誤解をしてた?—―(夫のカノジョ 文庫版 P.250)
やっと誤解が解けました。
—―「神さんの声が聞こえたばい。あんたらは互いに相手ん気持ち、よう理解できとるけん、もう許してやれ。そう神さんは言うとらしゃる」
(中略)
「おばあさん、ひとつだけ教えてちょうだい。私たちはもう入れ替わることはない?」
「そらもうなかよ。ひとり一回と決まっとるけんね」—―(夫のカノジョ 文庫版 P.267)
更に、菱子のおかげで星見は上手くいっていなかった母親と仲直りし、菱子の夫の実家とのつながりで、夫の父親に履物職人として弟子入りする事になります。
—― 今夜は、履物屋で手巻き寿司パーティがある。
うちのお母さんまで招待してくれたよ。
草履作りの師匠とその奥さん、そしてムギと奥さんと実花たんと真人、石黒ちゃんも来た。
総勢九人。
こんな楽しそうなお母さんの笑顔を見たのは、久しぶりだ。
あたしは師匠の奥さんが若かった頃の着物を着せてもらった。
自分で言うのもナンだけど、すんげえ似合う。—―(夫のカノジョ 文庫版 P.308)
めでたしめでたしです。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
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よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら? 例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713
次の第71回は「今後の活動とコンテストの反省」です。お楽しみに。
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