第60回 結婚相手は抽選で その2

  続きです。


 ここから第二章に入ります。いよいよ抽選見合いがスタートします。

 第一章では最後に出て来た龍彦が、最初に見合いをします。


――「私どもが本人確認をいたしましたら、お相手を引き合わさせていただきます。そのあとのことは、お二人で決めていただきたいと思います。つまり、解散です」

 えっ、たったそれだけ?

 会場がざわめいた。

「そのまま会場を出られてデートされても結構ですし、とてもそんな気になれないという方は、すぐ隣にございます第二、第三会議室を解放しておりますので、そちらを話し合いの場に利用されてもかまいません。残念ながら、すぐにでもお断わりしたいと思われた方は、職員にその旨をお伝えください」

 すぐにでも断りたい?

 考える余地なしってこと?

 そういうこともあるのか……。考えてもいなかった。現実は思った以上に厳しいらしい。

「では早速始めさせていただきます。まず男性ですが、Мのアの八五三七番の方、女性はFのイの四二七九番の方です」

 呼ばれた二人が立ち上がった。最前列で隣り合って座っている男女だった。

 と、いうことは……。

 やっぱり?

 自分の相手は、隣に座っている女性?――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.83)


 なんという杜撰ずさんな運営でしょう。少しは民間の婚活業者を見習ったらいいと思うのですが。


 幸か不幸か、この時龍彦のとなりには彼のどストライクな女性が座っており、その人とお見合いしたのです。ところがお断りされてしまいました。残念!


 そして、2人目はかなり体重が多めの人で、龍彦から断ろうとしていました。が、まさかの先方からのお断わり。


 3人目は、よせばいいのに変な見栄を張って収集がつかなくなってしまいました。



 続いて今度は好美。なんとお見合い相手は奈々の元彼、嵐望です。


――ところで、彼が見合いを断った回数は何回なのだろう。四月に始まって既に二ヶ月が経つから、もしかしてもう自分で三人目とか?

 相手のポイント数は、誰もが真っ先に知りたいことだが、尋ねるのはタブー視される風潮になってきている。最初の頃は、テレビなどでも大っぴらに回数を言ってしまう人もいたが、最近はみんなが口を閉ざすようになった。

 既に二ポイントになり、これ以上断ったらテロ撲滅隊行きだということが相手にわかってしまったら、好みでない相手に結婚を迫られたり、脅迫めいた行動を起こされる。それがエスカレートして刑事事件になった例もある。――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.135)


 間違いなくこういう問題起こりそうですよね。本当に細かいところまでしっかり世界観が構築されています。単なる思いつきでなく、構想にかなり手間をかけたであろう事が伺えます。


 政治的な面にもするどく踏み込んでいます。センシティブなので引用は自粛しますが。


――「結婚したら仕事をおやめになるつもりですか?」

「いえ、できればずっと続けて行きたいと思っています。人の役に立っていると思えるだけでも精神的に救われるんです。それがなければ、私みたいな屈折した性格の人間は、生きていくのがしんどいですから」

 彼は返事をせず、こっちをじっと見つめている。

「あれ? 私ったら何を言ってるんだろう。すみません、初対面なのに変なこと言っちゃって」

「ううん、すごくいいよ」

 彼はいきなりくだけた話し方になり、優しそうに微笑んだ。

 どきどきした。

 全く自分は単純だ。

 ほんと滑稽。

「いい、とおっしゃいますと?」

「なんていうか……すごく素直で、話していて気持ちがいいよ」

「それは、どうも」――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.136、P.137)


 この二人はいい雰囲気ですね。上手く行って欲しかったのですが……



 今度は奈々。捨てる神あれば拾う神あるか?


 奈々は2人とお見合いして、2人共断ってしまい、後がない状況でした。


――しかし、今日はもう絶対にこちらからは断れない。ゆうべ母と一緒に対策を練った結果、徹底的にいやな女を演じて、相手に断らせる作戦を取ることにした。もちろん、今日の相手がステキな男性だったら話は別だけど。

 いちばん気をつけなくちゃならないことは、一ポイントしか残っていないことを相手に悟られないことだ。もしも相手に尋ねられたら、まるまる三ポイント残っていることにするつもり。一人目とはしばらくつきあったけれど、向こうから断ってきたことにして、今回が二人目だということにする。まだまだ余裕があるような雰囲気を見せておく。

――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.142、P.143)


 奈々の3人目のお見合いの相手は龍彦です。


――「だいたいねえ、極度に緊張していること自体、すごくかっこ悪いのよ」

「すみません」

「全く緊張しないのもふてぶてしいけどね。緊張しすぎている男性を見ただけで、女はすべてがわかっちゃうのよ」

「と言いますと?」

「極度の緊張からまず連想するのは、女性に慣れていないってこと。なぜならそれは、女性にモテないから」

「なるほど」

「そんな男性を相手にするなんて、すごく惨めな気持ちになるじゃない」

「それはどういう意味で?」

「全く鈍いわね」

「すみません」

「つまりね、どんな女性にも相手にされない男性を、なんで私が引き受けなきゃならないのかってことよ。どうしてよりによって私が、かすくじを引かなきゃなんないわけ?」

「カスクジ? えっ、俺、かす? ですか……」

「いい? そんなの女にとって屈辱以外の何物でもないわ。だからあなた、緊張するのやめなさいよ。そうでなければ一生結婚なんてできないよ」

「すみません」

「すみませんすみませんって、簡単に謝るのやめなさいよ。男のくせにみっともない。うちのお母さんがいつも言ってるよ。すぐ謝る男にろくなのいないって」

「チョーすみません」――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.152、P.153)


 う~ん。いくら演技とはいえひどい対応ですな。これがウェブ小説だったら読むのをやめたくなるレベルですね。


 でもあえてネタバレします。この二人、すごくいい感じになるんですよ。ラストはホロッときます。


 ウェブ小説はこういう事がやりにくいですよね。


◇◇◇◇◇◇


 読んでいただきありがとうございました。


 次の第60回も引き続き「結婚相手は抽選で」の秘密に迫ります。お楽しみに。

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