第46回 婚外恋愛に似たもの その1

「婚外恋愛に似たもの」は、宮木あや子の小説です。6作品の短編集です。


1 アヒルは見た目が10割

2 何故若者は35年生きると死にたくなるのか

3 ぬかみそっ!

4 小料理屋の盛り塩を片付けない

5 その辺のフカフカ

6 茄子のグリエ〜愛して野良ルーム2


 6作品のうち1~5までが別の主人公でドラマ化されました。6では5人が総登場します。


 これらに共通しているのが、主人公が35歳の人妻で男性アイドルユニット「スノーホワイツ」ファンという事。


 タイトルから不倫物語を想像しましたが全然違いました。アイドルの追っかけ女子の物語です。でも意外と面白かったです。



1 アヒルは見た目が10割

 セレブの主人公を栗山千明が主演しました。

 彼女の詳細はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927859786642415


 上から3番目の位置という、普通の人から見ればうらやまし過ぎる境遇でありながら、上に2人いる事の悲哀がリアルな物語です。


 本人だけでなく、旦那もアイドルオタク。しかもテレビプロデューサーで目当ての娘と枕営業で一夜を共にするという夫婦の危機が生じます。


 同じアイドルオタクでも、男と女の違いが興味深いですね。


—―男と女で、アイドルに対しての意識は違う。男にとってのアイドルはオナニーのお供かもしれないけれど、女にとってのアイドルはデトックスだ。コンサートから帰ってきたあと、思い出してオナニーするなんてことは絶対にないので、男女が判り合えないのは当たり前だ。

(中略)

「アイドルとセックスするってどういう気持ち? あなたみたいな業界コネを持たない、ほかの一般ファンを出し抜いた優越感ってどれくらい気もち良いもの?」—―(婚外恋愛に似たもの 文庫版 P.31)


 更に夫婦の危機を加速しそうな事態が生じます。


—―身体を抱いた白い腕が目の前にある。その混じりけのない白さが少しだけ愛しくて、シミもなくてこんなに綺麗なのに、と思いながら、なんとなく柔らかそうなところに歯を立てた。ふっと頭のてっぺんのほうに快さを感じた。

 あれ、と思って口を離し、もう一度嚙みついてみた。

 痛いくらい、嚙み千切るくらいの強さで嚙み続け、口を離すと歯の形の赤い痕ができていた。無意識に反対の腕にも同じことをした。再び眩暈めまいのような心地よさが頭から足のほうへ流れてゆく。いくつもいくつも歯型を付けるたびに、ぬるい水がでるように体内を流れる。もう嚙めるところがなくなり、私は歯型だらけになった腕を見つめた。

 腕に嚙みつくたびに快楽の波は大きくなっていった。痛みに対しての快楽ではない。嚙みつくという行為に対しての快楽だった。夫に抱かれなくなってから三年間、オナニーすらしていなかった私の身体は確実に今、開いている。

 恐る恐る指を脚の間に滑らせてみた。やはり濡れていた。濡れて硬くふくらんだ突起が、三年ぶりの接触に痛いほど戦慄わななく。私は慌てて起き上がり、服を脱いだ。そしてバスルームに駆け込み、シャワーカーテンを引き、シャワーヘッドを取り上げた。カランを落として一気にお湯を出す。水圧の強いシャワーを脚の間に押し当てると、飛沫しぶきの一粒一粒が細い触手のように強引に性器を撫で、押し開く。膣の中に精子に似た温度のお湯が潜り込み、人の指を思わせる温かいそれが陰核を絶え間なく震わせる。

 身体がすべての水滴に感応し、痙攣けいれんを起こし始めたころ指先で乳首をつまんで撫でたら、あられもないあえぎ声と共にあっという間に達した。

 ああ、ああ、と細切こまぎれの息をきながらしばらく放心したのち、私は両手でヘッドを握りなおし、頭の上からシャワーをかけた。巻いていた髪がまっすぐに戻り、塗装と言った方が相応しい化粧がはがれ落ちてゆく。—―(婚外恋愛に似たもの 文庫版 P.34、P.35)


 なんて激しいシャワーオナニーでしょう。ヤバそうですがどうしても省略出来ませんでした。チャレンジしてみよう。


 そして終盤。


—―服を脱いだとき、夫が目ざとく腕の歯形を見付け、顔色を変えて手を摑んだ。

「なんだこれ!」

「自分で嚙んだの」

 手を振り解き、着替えを続行しようとしたら背後から夫に抱きすくめられた。「自傷するほど辛いなら、早く言えば良かったのに……」

「ちが……」

「強がりもここまでくると表彰もんだぞ」

 喜びを隠しきれない声に、私は気付く。彼は何か大幅に勘違いをしている。私は私の快楽のために

腕を嚙んでいただけだ。寂しさを夫に気付いてほしいとかそんな甘ったれた考えは微塵みじんもない。

 申し開きする間もなく、下着をおろされていた。

「ちょっと、まだ着てない……あぅっ」

(自粛)

 三年分まではいかない。けれど、一日分くらいなら、埋まったような気がした。—―(婚外恋愛に似たもの 文庫版 P.43、P.44)


 意外過ぎるハッピーエンドですがイイ感じですね。



2 何故若者は35年生きると死にたくなるのか

 専業主婦役を安達祐実が主演しました。


 安達祐実と言えば永遠の子役のような若々しい女優ですね。今でも「同情するなら金をくれ!」という名言(?)が頭から離れません。近年は「黒革の手帖」や「警視庁ゼロ係」等に出演しています。


 個人的にこのお話しはいまひとつ。女の人のアイドルオタクは時としてアイドルを恋人ではなく息子と重ねるのかというのが印象的でした。


 出来の良くない息子に振り回されるものの、羨ましいと思っていたセレブが不妊で苦しんでいる事を知り、人それぞれなんだと思いなおします。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。

 

 次の第45回は「長編小説の仕上げ方」の番外編として「『僕産み』誕生秘話」をお届けします。今度は本当に秘話です。お楽しみに!

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