第23回 ファーストラヴ

「ファーストラヴ」は、島本理生のミステリー小説です。第159回直木賞を受賞した作品です。女優の真木よう子主演でドラマ化され、女優の北川景子主演で映画化されました。


 タイトルからして恋愛小説かと思いきや、ミステリーです。父親を刺殺し逮捕された女子アナ志望の女子大生と、事件を取材する臨床心理士、女子大生の弁護士達を通じて家族の闇を描いています。


 真木よう子と言えば、多くの主演作のある人気女優です。この作品の他にもドラマ「セシルのもくろみ」や、ドラマ「よつば銀行」等でも主演しています。また助演ですがドラマ「ボイスⅡ」でも重要な役を演じていました。


 北川景子も多くの主演作のある人気女優です。「家売る女」や「リコカツ」で主演していた事は記憶に新しいです。


 脇役も魅力的な人が多いです。


 父親を殺害した女子大生・環奈役はドラマでは上白石萌歌が、映画では芳根京子が演じています。


 そして環奈の弁護士・迦葉かしょう役はドラマでは平岡佑太が、映画では中村倫也が演じました。


 この小説を読もうと思ったきっかけは、帯の2つの記載です。

「なぜ、彼女は父を殺さなければならなかったのか」と、「触れてはいけない、閉じ込めた愛の記憶」


 この2つとタイトルとのミスマッチが、「きっと面白いはず」と思わせてくれました。


 私は、ある小説を読むかどうかはほぼ直観と独断と偏見で決めますが、その際に重視しているのがタイトルと帯の記載。あと文庫版だと裏のあらすじと、巻末の他の人の解説あたりです。



 タイトルについて。最初に読んだ後、ついになぜこのタイトルなのか分かりませんでした。


 というのも、主要登場人物のいずれの初恋にもクローズアップする事がなかったからです。


 そこで、ググってみましたところ、作者の島本理生のコメントの記事を見つけ、これを読んでやっと納得です。


 以下、引用します。


——「例えば、愛情のように見せかけて実は身体が目当てだったりとか、特に若いころには、恋愛と見せかけた危ないものが周りにたくさんあるものです。そのため、恋愛とは似て非なるものを混同している女性って、実はすごく多いんじゃないかと思うんです。“あのときの恋愛は実は恋愛ではなかったのかもしれない” “本当は悲しい気持ちを押し殺していたのかもしれない”。読んだ方に少しでもそうした気づきがあればと思い、この小説に“初恋”という意味のタイトルをつけました」——


 まず、父親殺しの容疑者、環菜についてです。


 環奈の初恋の人、小泉祐二に対する感情は、実は本当の恋ではありませんでした。主人公で臨床心理士の由紀とのカウンセリングを通じて、環奈は自分の本心に気づきます。


 というのも、環菜と祐二が関係を持ったのは環菜が12歳で相手が大学生の頃でした。


 家出した環菜が祐二に優しくしてもらい、彼の家に何度か遊びに行く事になったのです。


 環奈は辛い家庭環境で悩んでいました。だから祐二は環菜にとって救世主でした。祐二はそこに付け込み、幼い環奈と関係を持ったのです。


 環菜は、この記憶を美化して初恋だと思いこみました。


 次に由紀と迦葉です。


 由紀は、環奈の事が他人事とは思えませんでした。


 父親は児童買春をしていました。そして母親とも上手く行っていません。


 そして、迦葉は母親から虐待されていました。家族に問題のある由紀と迦葉はお互いの傷を舐めるように一緒に過ごしていました。


 この、環奈、由紀、迦葉が事件を通じて変わっていく様がしっかりと描かれています。


 とてもソフトですが、性描写もあります。


——ヤカンの口から湯気が噴き出す音を聞きながら壁にもたれて、迦葉のキスを受け止めたときも違和感は消えなかった。それでもお互いに異性と二人きりならセックスするという選択肢しか持っていなかった。

 コンロの火を消して、寝室のベッドまで移動した。

 胸や腿に触れる彼の手つきが多少荒かったのは問題じゃない。暗がりでTシャツを脱いだときの肩やすらっとした腕には色気があった。こちらを見下ろす眼差しにも。

 にもかかわらず、私の体は反応しなかった。どんなに好きじゃない男と寝たときよりも。指が前後すると痛みだけが強くて、すぐに抜いてもらうしかなかった。上手くいかないのは迦葉も同様だった。触るまでもなく重なった感覚で分かった。

(中略)

「余裕で二ケタ超えるくらい経験積んでも、こういうことってあるんだな!」

と呟いた瞬間、心臓が刺されたように痛んだ。

「そんなにいたんだ。多そう、とは思ってたけど」

と私は感情を押し殺して言った。

「そうそう。だけど一度もなかったけどね。今日みたいなのは」

 それが決定打になった。私は布団で胸を隠して起き上がった。

 こちらを見た迦葉に、私は言った。

「それってただのセックス依存でしょう。母親に愛されなかったから」——(ファーストラブ 文庫版 P206、P.207)


 由紀と迦葉のセックスは上手くいきませんでした。 



——気まずくなるかと心配していたけれど、我聞さんにそのまま優しく抱き締められると、体の力が素直に抜けた。彼が右手を伸ばして部屋の明かりを消した。

 それは生れて初めての感覚だった。

 ちゃんと大事にされて愛されていることの安心感が全身を包み込むと、半ば心地よい眠りの中にいるようだった。感覚はのびやかで、どこに触れられても幸福感だけがあった。

 朦朧もうろうとしかけた私の頭を、裸の我聞さんが無言で抱え込んだ。目をつむって深々とした侵入を受け入れながら、実感した。どこもつらくない。心から信頼できる。

 終わってからもしばらくは、彼の乱れた呼吸だけが耳元で響いていた。

 その体を強く抱きしめて天井を仰いでいると、突如、現実が押し寄せて来た。——(ファーストラブ 文庫版 P.222、P.223)


 いや~ロマンチックですね。我聞は由紀の旦那です。そして迦葉の兄でもあるのです。


 ラストでこの兄弟の確執が解決するのもカタルシスですね。


——「由紀は僕と結婚してよかったと思う?」

と我聞さんが訊いたので、私は顔を上げた。

「もちろん。あなたと出会ってからの私はずっと幸せだった」

我聞さんも頷いて、言った。

「僕もだよ。迦葉は大事な弟で、由紀は大事な恋人だった。僕を慕ってくれる様子さえ、君らは似ていたんだ。由紀が触れてほしくないだろうと思って、今日までずっと黙ってきた。だけど、もしいつか君らが和解したら、言おうと思ってた。今日が来て、僕もようやく由紀を独占できるよ」

 私はゆっくりと息を吐いた。長年抱え込んでいた秘密が、消えていく。——(ファーストラブ 文庫版 P.357、P.358)


 いや~いいですねこういう夫婦。


 いつかこんな物語が書けるようになりたいと思わせる作品です。


◇◇◇◇◇◇



読んでいただきありがとうございました。


 もし、なる程と感じる所がありましたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。



 よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713



 次の第24回は「ホテルローヤル」の秘密に迫ります。お楽しみに。

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