4月18日 発明

 昔から物覚えが悪いとよく言われた。人が話していたことをいつまでも覚えているなんてことを他の人間はいとも簡単にやってのけるのが不思議でならない。

 昨日もまた仕事を頼まれた人から言われたことをすっかり忘れていて迷惑をかけたばかりだ。何かいい方法はないだろうか。地べたに座り込み、私は考える。

 アリがせっせと食料を巣へと運んでいる様子を見ながら、丸や四角といったものを砂に描いては消してを繰り返していると、良い考えが思いついたのだった。

「そうだ、言われたことを絵にして描けばいいじゃないか」

 早速、木の板を用意しておもむろに絵を描いてみる。これが自分の絵、そしてこれが仕事を依頼する人間の絵、これが作物の絵、これが水の絵。というように次々と絵を描いていく。

 自分の描いた絵を見てなかなかよくできたと我ながらに思った。他にも言われたことを覚えておくためにもっと絵を描いて残しておこうと考えた。すると何枚もの木の板が必要となるうえに、描く場所もそれなりに要するために細かな記録をしようとすると絵も必然的に巨大になっていく。

「これは困ったなあ」

 木に絵を彫ること自体、なかなか手が掛かるうえ、これ以上小さく絵を描くことは自分の技術では不可能だ。

「そうだ」

 簡略化すればいい。何も実物を完全に再現するような絵を描く必要などない。誰かに見せるわけでもないのだから。そしてさらに、木に彫りやすいような形の絵を描くようにすればいいではないか。

 そうして私は木に彫るためだけの専用の絵をつくったのだった。気がつけばその絵は百を超え、千を超えていった。


 案外こうして数々の漢字が出来上がったのかもしれない。

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