4月17日 宇宙からの種

 ある日、宇宙の彼方から一つの植物の種が地球に飛来した。その種はとても大きく、野球場一つ分に相当する。幸いなことに誰もいない砂漠に落ちたこともあって人的被害はなかった。種が落ちたところの地表はすり鉢状にへこんでいた。

 その後、世界各地から学者が集まり、この種の正体を調べた。その種の表面からは地球には存在しない物質が付着していることが分かり、宇宙から来たということはすぐに明らかとなった。ある人は「宇宙の生命体が地球を侵略しに来たのだ」と言い、またある人は「植物の種なんかではなく、隕石の一種だろう」と言った。多くの学者によって調べられたが、詳しいことは分からなかった。

 そして、種が砂漠に落ちてから数年経過した頃、その種は発芽し、その後――子葉を広げた。この出来事は大きく取り上げられ、世界中をにぎわせ、これを機会に種の見学ツアーを始める企業も現れた。

 数年後、植物は成長し、大きな葉を広げ、地球にはこれまでない美しい花を咲かせ、人々はこの花を見て心を奪われた。花はとても巨大で遠く離れたところからでも見ることができた。この花を見るためにヘリコプターを使い、近くで眺めようとする人もいた。

 さらに時が経つと、宇宙から来た植物はさらに成長し、高さは世界一高いタワーを超えるほど高くなった。植物の成長はとどまるところを知らなかった。そして、その植物の生えている砂漠は根で満たされ、水分を含む土壌へと変化した。そのため、かつてのような砂漠の面影は見られなくなった。

 ある学者が大気の温室効果ガスの濃度を測定すると数値が減少していることに気づいた。温暖化が危惧されている地球では喜ばしいことだった。その後、温暖化の問題は心配する必要がなくなるほどにもなった。人々は宇宙からの植物のおかげだと考え、その植物の栄誉を称えた。それからというもの、人々はその植物に『幸福の花』という呼び名で呼ぶようになった。幸福を呼び寄せる花であることから、その呼び名が付けられたのだ。人々はその植物を大切にした。成長した植物から伸びた蔓が民家にまで及ぶようになった時には、人々は決して蔓を切り落とさなかった。『幸福の花』と呼ばれる植物を傷つけることは不運を招くと考えたからだ。それゆえ、住民たちは他の場所へ移住したのだった。

 それから数年後、さらに植物は成長し、高さは成層圏まで達した。人々はこれ以上成長するとどうなるのだろうと思いもした。そしてその後も植物は成長し続けた。

 その成長は地球の環境に悪い影響を与えることとなった。地球上の土壌に含まれている養分のほとんどは巨大な植物の成長に使われるようになり、元々地球に存在していた植物の多くは枯死してしまった。農作物も枯れてしまい、飢餓で苦しむ人々も現れた。

 それからさらに年月が経つと、温室効果ガスの濃度にさらなる変化があった。宇宙からの植物が来る前と比べて極端に減少し、地球は寒冷化した。一年を通して暖かかった地域でも雪が積もった。

 やがて地球は氷河期をむかえた。ここまで何とか生き抜いてきた人々は氷河期によって農作物がとれなくなり、一層深刻な飢餓に苦しんだ。地球上にいる動物の多くは滅びてしまった。また、人類もその例外ではなかったようだ。

 宇宙からの植物にも変化があった。これまで咲かせていた美しい花は萎れてなくなり、やがて種袋をつけた。やがてはじけて中に入っていた種を飛ばす。

 そして、種は次の星へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る