4月15日 遠足のおやつ

「遠足のおやつは三百円までです」

 遠足まで残り一週間を切った。おやつの準備もそろそろしないといけない。決められた金額の範囲内でどれだけおやつが買えるかは、私にとっての大きな問題だ。

 棒状のスナック菓子を三十本買ってもいいかもしれない。そうすれば他の人とおやつの交換をしていろんなお菓子を食べることができる可能性もある。ただ、三十本もリュックに入れて遠足に行くというのはとても現実的ではない。スペース的に水筒や弁当箱が入りきるかどうか怪しいからだ。それにおやつの交換がうまく行われなかった場合には、この大量のスナック菓子をただ消費することになるだけだ。

 そうなるとある程度、お菓子の種類は分散させる方が良いだろう。チューインガムに、チョコレート、ラムネ、グミなどはどうだろう。

 合計金額を計算して買えるお菓子の品数を見積もってみる。思いのほか少ないではないか。これでは全然だめだ。何か良い方法はないかと頭をフル回転させて考える。

 すると良いアイデアが思いついたのだった。昔、問屋で大量のお菓子を一括購入すると安く買えるという話を耳にしたことがあった。早速、駄菓子の問屋を訪れて値段を確認する。確かにその通りだった。大量に購入するため出費はそれなりにはなるが、お菓子一つ当たりの値段はかなり下がる。気がつけば次々と複数のお菓子を購入していた。財布の中はほとんど空っぽになっているではないか。

 家に帰って改めて単価計算をする。そして三百円相当になるようお菓子をその中から選定していく。随分と悩みながら選んでいたために半日ほどかかってしまった。品数もまずまずであり、スナック菓子ばかりではないためリュックを圧迫することもない。遠足が楽しみだ。


 そうして遠足当日の朝が訪れた。しかし、どうも体調がすぐれない。身体はぞくぞくと悪寒を感じるうえ、鼻水も止まらないし、熱もあるようだ。

 試しにベッドから起き上がってみると少しふらついた。これでは遠足どころではない。仕方なく電話で学校へ休みの連絡を入れる。

「すみません。体調不良のため今日はお休みいたします」

『承知しました。お大事に』

 電話を切ってベッドに倒れ込んだ。羽毛布団は私の身体を優しく包み込み、ゆっくりと下に沈み込んでいく。せっかく入念におやつの準備もしたのに残念だ。

 小さな駄菓子屋が開けるほど、多くのお菓子が置かれた部屋を眺めていると、自然とため息が漏れた。学校の先生といえども、子どもたちに三百円分の制限を課しておきながら、自身がそれを守らないわけにはいかない。

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