4月14日 探偵……
探偵が孤島の洋館に滞在して六日が経過した。ここに来て以来は雨風がとても強く、大陸とこの孤島を一日一往復する定期便すら来ることができないほど天候は大荒れだった。明日には天気もおさまって朝には迎えの船が到着するという。幸いにも洋館には備蓄が多くあったために食べ物にも困ることはなかった。
この滞在期間中、天候こそ荒れてはいたが、洋館の中は平凡そのものだった。
夜遅くに刃物を研ぐような音が聞こえたことがあったが、不審に思って確認しに行くと、それは洋館のシェフが料理の仕込み前に包丁を研いでいただけだった。
マダムの高価な指輪が、どこかに消えたと言って大騒ぎしていたけれども、ものの数分でドレッサーの上に自分で置いていたことを思い出して事なきを得た。
隣の部屋で大きな叫び声と物音が聞こえたことがあったが、探偵がすぐさま駆けつけたところ、良いトリックが思いつかなかった推理作家が自暴自棄になって一人で暴れていただけだった。
探偵の助手の行方がわからなくなることがあったが、昼食の時間になると助手は無事現れた。どこへ行っていたのかと聞くと、地下室に面白い推理小説があり、推理作家と一緒になってつい読みふけってしまっていたという。
翌朝、雲一つない青空が一面に広がっていた。これまでの嵐が嘘のようだ。探偵は船に乗りながら、孤島の洋館が徐々に小さくなっていく様子をずっと見ていた。一週間という短い期間ではあったが、洋館での生活は悪くはないものだった。シェフの作るおいしい料理に舌鼓を打ち、洋館に滞在する人々との雑談に興じたり、助手とチェスをして遊んだりと思い返せば、相当な気分転換になった気がした。
やがて孤島は水平線に消えてもう見えなくなった。
探偵はふと思う。
「え、事件はっ?」
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