4月13日 最速の探偵

 探偵は容疑者全員を洋館の食堂に集めて推理を繰り広げようとしていた。

「犯人はこの中にいます」

「犯人? どういうことですか?」

 シェフは目を丸くしながらそう言った。探偵は彼を指さしながら声を発する。

「犯人はあなたです」

「私……犯人? え?」

 状況が全くと言って把握できないシェフは慌てふためいていた。

「そうです。シェフ、あなたが犯人でしょう。私がこれから推理して差し上げます。あなたは夕食の間、私たちと一緒にこの食堂にいるかと思われますが、途中で厨房へ戻るでしょう」

「厨房へ戻るでしょう?」

 探偵の言っていることがシェフには一体全体どういうことなのか理解できずにいた。探偵は全く気にすることなく推理を続ける。

「厨房は被害者女性のいる部屋の真上です。被害者女性を睡眠薬で眠らせ、輪を作ったロープをかけておきます。部屋の中央にある照明の接続部分にロープをかける。そして窓からロープを垂らし、厨房へとつなぐ。後はロープを引っ張れば首吊りに見せかけた殺人の完了です。ちなみにロープは二本使用します。一本は照明と首をつなぐロープです。二本目のロープは輪の状態にして、照明部分にかかっている一本目のロープを通すように設置します。こうすることで犯行が終わった後、二本目のロープを切断することで回収することができるというわけです」

「あのお言葉ですが、まだ事件が発生していないのにそのような憶測を言われては私も困ります」

「憶測ではありません。推理です。私のような名探偵は事件が発生する前に解決してしまうんです。私が最速の探偵と名乗るのはそうした理由からです」


 後日、探偵は名誉毀損の罪でシェフから訴えられた。

「殺人事件が起きてないのに殺人犯呼ばわりとはいくらなんでもひどすぎます。これはれっきとした名誉毀損と思われます」

 相手方の弁護士は自信満々に主張した。

「事件が起こる前に推理をして何が悪い。おかげで死人が出ていないじゃないか」

 探偵の言い分はそう簡単に理解されるものではなかったという。

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