4月11日 二人の探偵

「この中に犯人はいます!」

 探偵は声たかだかにそう言った。さらにもう一人の探偵も続けて話す。

「僕も同じくこの中に犯人がいると考えています!」

 容疑者全員を洋館の食堂に集めて二人の探偵はこれから推理を繰り広げようとしていた。この二人は双子の兄弟ということもあって顔も声も他人からすれば区別がつかないほどそっくりだ。

「昨日の首吊りの死体、あれは自殺なんかではありません。間違いなく他殺によるものです。踏み台にして使用した椅子の倒れ方は異常です。被害者の女性は身長が低く、首をくくった状態では、背もたれに足が届かないために椅子を蹴とばすことはできないと思われます」

 と、話す兄の意見に弟の探偵も同意する。

「僕も同じく、彼女の身長からして椅子を倒すのは不可能だと考えます」

「そして何より決定的なのは首吊り自殺したのなら、本来つくはずのない場所に何かで首を絞めたような痕が残っています。これらのことから僕は他殺だと思っているわけです」

 するとまた弟の探偵も続けて話す。

「僕も同じく、首吊りした時につくはずのないところに首を絞めた痕跡があるため他殺だと考えています」

「さて、そうなると犯人は誰か。皆さん、被害者の死亡推定時間にアリバイがありました。しかし、そのアリバイが不完全な人がいます。それはシェフ、あなたです」

「では、そうなれば犯人は誰なのか。皆さん、被害者女性の亡くなったと思われる時間にはアリバイがありました。でもアリバイが不完全な人がいます。シェフ、あなたです」

 シェフは顔をうつむいたまま、何も話さずにそのままじっと立ったままだった。兄の探偵は推理を続ける。

「シェフ、あなたは夕食の間、僕たちと一緒にこの食堂にいましたが、途中でアップルパイを取りに厨房へ戻ったことがありましたね。実は厨房は被害者女性のいた部屋の真上だったんです。被害者女性を睡眠薬で眠らせ、輪を作ったロープをかけておきます。部屋の中央にある照明の接続部分にロープをかける。そして窓からロープを垂らし、厨房へとつなぐ。後はロープを引っ張れば首吊りに見せかけた殺人の完了です。ちなみにロープは二本使用します。一本は照明と首をつなぐロープです。二本目のロープは輪の状態にして、照明部分にかかっている一本目のロープを通すように設置します。こうすることで犯行が終わった後、二本目のロープを切断することで回収することができるというわけです。犯人はシェフ、あなたです」

 弟の探偵も続ける。

「犯人はシェフ、あなたです」

 シェフは呆れたように言う。

「ねえ弟さん、必要? お兄さんと同じことを繰り返しているだけなのではありませんか」

 兄の探偵が答える。

「双子だから思っていることはほとんど同じです。以前に推理を披露していた時に兄と弟の声が重なって話が聞き取りにくいというクレームがありました。だから僕が先にセリフを言ってそれから弟が後から話すという風に変えたのです」

 遅れて弟の探偵が話す。

「兄弟だから考えていることはほぼ同じです。前にこうして推理していた時には僕ら二人が同時に話すものだから聞き取りにくいという苦情がありました。だから兄が先に話してから後から僕がしゃべるという風に変えました」

「それって結構、聞いている方にとってもかなり鬱陶しい気がするけれど、それはそれで苦情は来ないものなのかい?」

「正直なところ僕自身も二度同じことを話しているようで煩わしいと感じてはいます」

「本音を言うと僕も――」

「――ええと弟さんはもういいや。なんだか面倒だから自首するよ。僕が犯人さ。これでいいだろ」

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