4月10日 空からうどん

 いや、本当に驚いたよ。まさか、あんなものが落ちてくるなんて思いもしなかったからさ。

 ある日のこと、僕は団地沿いの道を歩いていたんだ。別にどこかに行って何かするわけでもなかったのだけど、ただ単に歩いていたんだ。えっ? さんぽ? 世間的にはそういう風に言うんだったかな。そんなことはまあいいけど。歩いていると、青い空から白いものが落っこちてきたんだ。驚きだよね。もし、空から落ちてきた物が白い雲だったり、白いマシュマロだったりしたらファンタジーというか、絵本の中の世界というか、そんな感じで夢があっていい感じはするけど、落ちてきた物があんなものでは絵本にしたときに小さい子に笑われてしまうよね。

 その物体が落ちてくる直前にそれが一体何なのかということには気づいていたわけで、落ちてから初めて気づいたわけじゃなかったから、何とか対処することができた。僕の頭上に落下することは避けたいと思っていたから、歩くことをやめて地面に落ちるのを見ていたんだ。そう、呆然とね。もし、僕がその時に麺つゆが入っている器を持っていれば、それなりの対処ができたのだけど、あいにく、そんなものは持ち歩いているはずもない。

 その物体は僕の歩幅にして一歩ほど前のところに落ちたんだ。もう食べられないな、これは。

 白い、麺つゆ、食べられない、この三つのキーワードから検索をかけて導き出されるもの、そうそれは。

 そうめん。

 じゃなくて、うどんだ。これで、そうめんだったら、タイトル詐欺になってしまうからね。ここは、うどんにしておこう。いや、うどんだったんだって。

 砂うどん。絶対に流行らないよ。百年経ってもブームは来ないと予想できるよね。



 実に軽快な文体でここまで描写してきたものの、実際、市営団地三階の階段から通行人めがけてうどんを落としてくる頭のおかしなおばあさんは恐怖そのものだった。


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