4月9日 葉桜
桜はガクだけを残してほとんど散ってしまった。ところどころに新緑の若葉が茂り始めているほどだ。お花見のシーズンも先週で終わったせいか公園は賑わってはいなかった。ついこの前まで公園に出ていた露店も気がつけば姿を消している。
公園の中にある、ひときわ大きな桜の木を仰ぎ見る。すると上の方に一輪だけ、花びら全てが残った状態のものがあるではないか。私は惹きつけられるようにそれをじっと見つめた。
不思議なものだ。桜が開花したばかりの頃は春の訪れを感じて色々な人が目を向けてくれるのに、散り際の桜になると途端に目もくれなくなっていく。このように最後の一輪をしっかり見届ける人などほとんどいないだろう。
桜の木の下には、昨日振った雨によって大きな水たまりができていた。そこには色あせた泥まみれの桜の花びらが随所に散らばっている。
顔を上げてもう一度、あの桜の花を見る。陽の光に照らされてより白さが際立っているように感じられた。花びらに残った雨粒が反射して宝石のように輝いている。
あの桜の花から、どことなく力強さを感じるのは気のせいだろうか。周囲の桜が散ってもお構いなしに咲く、その姿をずっと見ていると、胸がきゅっと締め付けられるような、そんな感覚に徐々に包まれていくような気がした。
何もいつも周りに合わせる必要なんかないんだよ。
早いことが絶対的に良いこととは限らないよ。
自分は自分、他人のことを気にしてばかりではだめだよ。
少しばかり花開くのが他人より遅くたっていいじゃない。
と、まるで桜の花が私に語り掛けているようにも思えた。
私は深く息を吸う。そしてゆっくりと吐く。
するとなんだろう。気持ちが落ち着いて元気が出てきた。
桜の木を背にしてゆっくりと歩きだす。
あの桜の花のように力強い、一歩で踏み出したのだった。
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