4月7日 心の目

 心の目はみんなにあります。

 と、中学の国語の先生はそう言った。

 その授業の時間はまるで道徳の授業を受けているようにも感じられた。実際、日常的に存在する心の目の例を文章にまとめたものを生徒全員に配布し、各自で黙読するよう言われたのだった。

 中学を卒業してから、かれこれ十年以上経過しているために細かな授業の内容までは今ではさほど記憶にない。覚えていることといえば、落ち込んでいる人がいたら気づかってあげたり、困っている人がいたら助けてあげたり、何か言いたそうにしている人がいたら意見を聞いてみたり、このように他人に気を配ることができる目のことを心の目というのだと書かれていたような気がする。

 どうしてまたこんな昔に受けた国語の授業を今さらながら覚えているのか、これには理由がある。

 それはその先生が授業中にとてつもない発言をしたからだ。

 先生が心の目を授業で扱っておよそ十分ばかりが経過した頃、すなわち心の目についてのおおよその説明が行われた後のこと、真ん中あたりの席に座るお調子者の男子生徒がふざけて隣の生徒にちょっかいを出していた。

 当然、それを先生は見つけて注意する。いや、先生は顔を真っ赤にして怒ったのだった。

「あんたねえ、大事な授業中にふざけてんじゃないよ!」

 先生はそのお調子者の生徒の席まで近づいていく。

 そしてまさかの発言が教室中に響き渡る。

「あんたには心の目なんてないわ!」

 え? 心の目、みんなにあるんじゃないの?

 緊張感が走る教室に、生徒一同が動揺したのは言うまでもない。

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