4月6日 タイムマシン

 ある家族のもとにタイムマシンがやってきたのは、二〇××年の春のことである。過去にも未来にもいくことができるタイムマシンは、今では一家に一台が当たり前の時代。この家も遅ればせながら、ようやく購入に踏み切ったのだった。

「おとーさん、たいむましんにのりたいよー」

 父親の腰の高さまでしか背丈のない、小さな子どもが父親のズボンを引っ張りながら、せがんでいる。

「少し待ってね。もうちょっとで説明書を読み終えるから」

 父親は説明書を見てタイムマシンの使い方を確認していた。

 しばらく経ってから、ひと通り読み終えると、

「そうだな。そろそろ、タイムマシンに乗ってみるか」

 父親はタイムマシンに近寄り、電源ボタンを押した。

 するとタイムマシンは奇妙な機械音を出しながら起動して、『カコ』、『ミライ』と書かれたボタンが交互に点滅し始めた。

「よし、そろそろ行くぞ。早く二人とも乗って」

 父親は妻と子供を呼び、タイムマシンに乗せた。

「過去に行くんだから、このボタンを押せばいいんだな」

 入念に確認をしてから『カコ』のボタンをそっと押し、出力レバーを引いた。

 すると、タイムマシンはその場から瞬時にして消えてしまった。

 タイムマシンに乗った家族は、過去へと移動したのである。


「ここが三十年前の世界か。こんなにも人がいるなんて」

 父親は驚きのあまり目を丸くしている。

「わーい。これでようちえんにいけるよー」

 母親も安堵の笑みを浮かべている。

「そうね。これまで幼稚園に行くことすらできなかったから助かるわ。時代に乗り遅れると痛い目に合うのね」

「そうだな。さっきまでいた世界の人口は、俺ら家族の三人だけだったからな」

 人々はこの先どうなるか分からない未来よりも、明るかったと分かりきっている過去を人々は好んだ。

 それゆえに次々と過去へ移り住むようになったのである。最終的に人口は三人のみとなったが、結局その三人も過去へ移ることにしたのだった。

 子どもは両親を見つめながら優しくつぶやく。

「みんな、しあわせなじだいにいきたがるんだね」

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