1月23日 映画館デート

「オッケー。今度の日曜日ね。で、どの映画を見る?」

 彼女は長い髪をかき上げながら訊いてきた。僕はとりあえずテレビで宣伝映像を見ておもしろそうだと感じた作品を挙げてみる。

「最近公開した『百日後になくなる運転免許証』とかどう?」

「うーん、私、ホラーとかグロテスクなやつ苦手なんだよね。……そうそう! 今流行ってる『メーラー・デーモンと賢者の時間』なんてどう?」

「今話題のやつね。うん、それでもいいよ」

「あっ、でもファンタジーあんまり好きじゃないって前に言ってたよね。ごめん。やっぱりやめよう。せっかくなら二人とも楽しめる作品の方がいいし」

 自分がファンタジー好きではないことはかなり昔に話したことだ。彼女はよくもまあそんなことを覚えていたと感心する。

「じゃあどうする? 他に何かやってたかなあ」

 スマートフォンで現在公開中の映画を探してみるが、二人が見たいと思える作品はなさそうだった。

 すると急に彼女は手を打って、何か思いついた風に言う。

「そうだ、こういうのはどう?」


   ***


 日曜日の映画館は人でごった返していた。チケット売り場の担当者は、私を含めて三人体制で対応しているが、行列をさばききるにはまだまだかかりそうだ。

「お次の方、どうぞ」

 と、私は会話に夢中なカップルに大きな声で呼びかけた。すると二人はチケット売り場の受付へと足を運び、開口一番にこう言った。

「『百日後になくなる運転免許証』大人一枚」

 一枚? 聞き間違いか。念のためわざわざ確認する。

「一枚でよろしいですね?」

「はい。そうです。あと『メーラー・デーモンと賢者の時間』大人一枚ください」

「……はい。かしこまりました」

 どうやらこのカップルはデートで別々の映画を見るらしい。これは果たしてデートの意味があるのか私にはわからない。作品名の異なる二枚のチケットを渡し、カップルを見送る。

 あまりに二人が幸せそうに歩いていくので、もう勝手にしてくれと心底思ったのだった。

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