1月22日 イシュー

 駅に到着したが、電車の扉はすぐには開かなかった。乗客たちも不審に感じてきょろきょろと辺りを見回している。

『非常通報装置が取り扱われました。現在、係員が状況確認中です。今しばらくお待ちください』

 車掌のアナウンスが流れた。一瞬、人身事故でもあったのかと思ったがそうではないようだ。中央に位置する、私が乗っている車両に駅員や鉄道警察隊などが次々と集まってきた。

『一部のドアが開きます。ご注意ください』

 車掌の声が聞こえたかと思うと、私の乗っていた車両の扉が開く。

 ホームにいた鉄道警察隊は「乗られている方は全員降りてください。慌てず落ち着いて入口の方から順番に下車お願いします」といって避難誘導し始めた。

 全員が降り終わると、しばらくこのままホームで待つように駅員に言われる。

 空っぽとなった車両に防護服を着た警察官数人が中に入りこんでいく、そして車内の空気を袋に入れて持ち帰ってきた。

「サンプル採取完了です」

「よくやった。すぐに科捜研へ」

「はい」

 一体この車両で何があったのか、私にはいまだ見当がつかなかった。思い切って近くにいた温厚そうな年配の駅員に訊ねてみた。

「この車両で何かあったんですか?」

「乗客の人が非常通報装置を押してね。なにやら異臭があったっていうことらしいです。ほら、ここからでも相当匂いますでしょ」

「ああ……」

 ここでようやく状況を初めて理解した。

 これはいけない。急に冷汗が出てきてしまう。まずいぞ。これは本当に。

 怖そうな顔の刑事が現れ、大きな声で呼びかける。

「乗客の皆さん、これから警察の聞き取り調査を行いますのでしばらくご協力願います」

 周囲をみれば「なんだか臭いからおかしいと思ったんだよ」、「めっちゃ臭かった。本当に死ぬかと思った」、「絶対あれは有毒ガスだ」、「まさかテロに巻き込まれるなんて思いもしなかった」とざわざわと乗客たちが話していた。

 きっといつか自供しなければならないのだろう。

 私が屁をこいてしまったことを。さて、どのように説明したものか。これは大きな問題だ。

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