1月21日 歯車
毎朝、電車に乗っていると毎日同じ人が乗っていることに気づいた。通勤ためにいつも同じ時刻に乗車するのは私以外の人間も同じようだ。今日もまた定刻通りの発車だった。
『まもなく××、××です。お出口は左側です。△△線はお乗り換えです』
向かいのスーツを着たサラリーマンは新聞をたたみ、カバンへとぞんざいに放り込んだ。今日もまた彼は次の駅で下車するのだろう。
そんなことを考えているうちに電車は駅へと到着した。ほどなくして扉が開く。
『××、××です。ご乗車ありがとうございました』
いつもと同様に顔を見知った何人かが下車していく。その光景はまるで定刻になると鳥が扉から出てくる鳩時計のようだった。
ひと通り下車したのを見計らって、それからまた大勢の人々が乗り合わせてくる。少々窮屈な状態となった。その後、慌ただしく戸閉して再び走り始めた。
朝の通勤電車で会話をしている人は誰一人としていない。やかましく走行音が鳴り響いていて騒がしいはずなのに不思議と静けさを感じた。
自分も含めてここに乗り合わせている人の多くは社会の歯車でしかないのだろう。そんな考えが突如として浮かんできた。もし自身が不慮の事故で亡くなって会社に出社できなくなったとしても、てんやわんやするのは数週間だろう。しばらくすると人員が補充されて何事もなかったかのように回り続けることだ。そんなことを考え始めると自分の存在意義について次第によくわからなくなってくる。
そのようなことを考えているうちに既に定刻となっていた。
『おはようございます。○○、○○です。お降りのお客様が出られましたら、車両中ほどまでお進み願います。まもなくの発車です』
大きめのターミナル駅に到着すると、鳩時計からどっと何個もの歯車たちは規則正しく順に降りていく。誰に教えられたわけでもないのに入口付近にいた歯車は一旦外に出て、他の歯車が降り終えたのを確認するとまた中へと戻ってきた。
そしてまたそんなことを繰り返しながら、この鳩時計は着々と時を刻み続けた。
次の駅で乗り換えだ。スマートフォンをしまい、扉の方へ視線を向ける。左へ左へと流れる景色は次第に緩やかになっていき、やがて停止した。
『お客様にお知らせいたします。ただいま当電車は停止信号のため停車しております。この先の□□駅にて電車とお客様が接触した影響で運転を見合わせております。お急ぎのところご迷惑をおかけいたします』
また一つの歯車がなくなった。当然、鳩時計は定刻になっても扉は開かない。
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