1月17日 ナビゲーション

 男は中古品を扱っている店で――あるものを探していた。

「すみません。カーナビって売っていますか」

 すると店員は明らかに営業スマイルとわかる顔をして答える。

「はい。扱っております。すぐにご案内いたします」

 そういうと店員はカーナビ売り場に男を案内した。

「こちらでございます。当店では、この機種をおすすめしておりますがどうされますか」

 店員は最も高性能で高価なカーナビを指さして言ったのだった。

「うーん。少し高いかな。もっと安いのはありませんかね」

「かしこまりました。そうですねえ、一番安いものですと、こちらです」

 店員が勧めているカーナビの見た目は先ほどのものと全く同じものであり、価格は先ほどの機種の半値で売られていた。そのため客の男は疑問に思い、店員に尋ねた。

「これは、さっきのものと同じ機種ですよね。どうしてこんなに安くなっているんですか」

「お客様。これは先ほど紹介したものとは異なる機種です」

 客の男は改めて見比べるが、彼には見た目での違いは分からなかった。

「あまり見分けがつきませんが、機能は少し劣るのでしょうか。例えば、入り組んだところにある目的地にたどり着くことができないとか」

「目的地にしっかりたどり着けるだけの性能はあります」

 客の男は少しの間考えたが、

「そうですか。そうでしたら、この機種にします」

 と言い、そしてマイカーにカーナビを取り付けて早速、運転をすることにしたのだった。試運転のため、今までに訪れたことのある場所に行くことにした。正しくたどり着けるか心配だったようだ。安価だったため、壊れている可能性があると思ったのかもしれない。

 目的地を設定し、車を走らせた。そして、その設定した目的地にしっかりとたどり着くことができたのだった。

『目的地周辺です。運転お疲れ様でした』

 とカーナビの音声が鳴った。

 男は家に帰ろうと思った。帰りの際は、わざわざ目的地を設定するのが面倒だったのか設定をしなかった。

 車を再度走らせると、カーナビの音声が鳴った。

『三百メートル先、右方向です』

 男は眉をひそめた。設定していないはずのカーナビがナビゲーションをしている。そのとき、男は思った。このままカーナビに従っていくと、どこにたどり着くのだろうかということを。好奇心が湧いた男はカーナビの指示通り、車を走らせた。

『まもなく右方向です』

 気が付くと街から外れて山道を走っていた。もちろん、男の住んでいる家は走っている方向とは反対方向であり、家にはたどり着くはずもない。それでも男は車を走らせた。

 そして、道幅の狭い山道を走っているときに何かが車に落ちてきた。

 落ちてきた物は――大きな岩だった。どうやら、山が崩れて岩が落ちてきたようだ。その岩は車を押しつぶした。そして、押しつぶされた車は、その勢いでガードレールを越えてその向こうの崖へと落ちていった。

 車の中ではカーナビの音声がただ鳴り響いていた。

『目的地周辺です。人生お疲れ様でした』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る