1月12日 黒い絵の謎
地元のスーパーマーケットを訪れた時のことだ。レジを抜けた先にある商品袋詰めのスペースにはたくさんの絵が飾られていた。筆圧強くクレヨンで描かれていることから幼稚園か小学生低学年が描いたものだろう。辺りを見回して確認すると案の定、近所の幼稚園児が描いたもので間違いなかった。まだ幼いこともあって画力が伴わず何のシーンを書いたものなのか、わからないものがちらほら見られる。園児たちの絵は様々な色のクレヨンを使って描いているなか、一つだけ異なるものがあった。
一色のみのクレヨンを用いて書かれている絵があったのだった。周りに飾ってあった絵がカラフルなだけにより目立つ。黒一色だけで描かれた絵にもかかわらず。
「なんだろ? この絵?」
私は一緒に来ていた妹に話しかけた。鶏肉をビニール袋に入れ、それからマイバックに収納し終えたところで絵を一瞥して言う。
「他の色のクレヨン持ってなかったんじゃない?」
「鉛筆ならまだしも、黒のクレヨンだけ持っているなんてことある?」
「ううん、確かにそう言われると……」
クレヨンはたいてい十二色のセットで販売されていることが多い。一本ずつ個別で買うものではないから、黒だけしか持っていないのは不自然ではなかろうか。
「何のシーンを描いたものなんだろうな」
「他の絵から察するにみんなお泊り保育での絵を描いているんじゃない?」
なるほど確かにそうかもしれないと思った。同じ幼稚園児でも画力は様々で、説明を受けなくとも何のシーンを描かれているのかわかるものもなかにはあった。砂浜で遊んでいる絵、キャンプファイヤーの絵、みんなで朝ごはんを食べている時の絵などがあることから、どうやらお泊り保育の絵を描いたもので間違いなさそうだ。
黒一色ということはお泊り保育での夜のシーンを描いたものではなかろうか。そうなれば大体想像はつく。
「じゃあこの絵はキャンプファイヤーの絵ってことか」
「でも、もしそうだったら炎を描くでしょ。見た感じそんなものは描かれていないし」
言われてみればそうだ。他の子の絵を見ると中央に赤いクレヨンでキャンプファイヤーの炎と思われるものが描かれている一方、この絵は人と思われるものが何人か描かれているだけ。大きい人が一人だけ描かれているがこれは付き添いの先生だろうか。背丈の小さい人が十数人、これはおそらく園児だろう。
「だとしたら、この絵は一体何なんだ? 他の子はみんな複数のクレヨンを使っているのに黒一色の絵なんて。この子の絵から闇を感じるよ」
そのように妹に話していると、すぐ近くで子どもとその母親が絵を見ながら楽しそうに話をしていることに気がついた。
「あっ、見つけた。絵ここにあったよ。お泊り保育の時の描いたんだね?」
「うん!」
遅ればせながら絵の下にタイトルが記載されていることに気がついた。
よるみんなであるいたよ
担任の先生が書いたと思われるとても丁寧な字でそう書かれていた。
なるほどナイトウォーク、あるいはキャンプファイヤーをやるまでの道のりで歩いた時の絵というわけか。
ここで自らが数秒前にした発言を思い出し、背の中心がぞっとするような感覚に見舞われた。
――この子の絵から闇を感じるよ
二人にこの発言が聞こえてないことを願ってやまない。
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