1月9日 願い事
女が路地を一人で歩いていると突然、黒服を着た男に声をかけられた。
「おい、いいか。おまえの願いごとを三つ叶えてやる」
女はあまりに唐突だったため目を丸くして驚いた。しかも見知らぬ男だ。当然警戒する。女は男に訊ねる。
「ええと、どこかで会いましたか」
「これが初めてだ。そして、これで最後だ」
「はあ……」
女は怪訝な面持ちで男を見つめると男は催促して言う。
「一つ目の願いごとは何なんだ。早く言え」
「急にそんなこと言われても……」
女は困惑していた。突然、願いごとは何だと言われてもそう簡単には出てこない。
「願いごとを叶えると言われても、そう簡単には信じられません。あなたが私の願いごとを叶えられる特別な存在であることを証明していただけますか」
「わかった。いいだろう」
男はそう言って、女のバッグを指さして言う。
「どうだ、そのバッグは」
「あれっ……私のバッグじゃなくなっている。これは私が欲しかった有名なブランドの……」
「そうか、そうか、おまえが欲しがっていた物なら良かった。俺はこの世界のことはよく知らない。だから、お前の欲しいバッグもそうでないバッグもどれも同じように見える。似ているバッグがあって見分けがつかないからな。それはこれからお前のものだ。中に入っている物は前のバッグと変わっていないから安心しろ」
「もらっても良いんですか。ありがとうございます」
「これで願いごとを叶えられることが証明できただろう」
「はい。どうやら、本当のようですね」
女は欲しかった物を手に入れて気分が良くなったのか、すっかり信じ込んでしまっている。
「では、二つ目の願いごとは何なんだ」
「二つ目ですか。まだ私、一つ目は言ってませんよね」
「一つ目は願いごとを叶えられる特別な存在であることを証明しろ、ということだろ。そんなことよりも、二つ目の願いごとを早く言ってくれないか。俺はこう見えても忙しいんだ」
女は何か文句を言いたそうにしていたが、潔く男の言うことに従った。
「じゃあ……お金が欲しいというのはどうですか」
「わかった。いいだろう」
そう言い終わると、空から硬貨が一枚落ちてきた。そして、地面に落ちて音がした。女は、それを拾って男に言う。
「お金ってこれだけですか」
これでは缶ジュースをかろうじて一つ買える程度の金額でしかない。
「これだけとは何だ。どれくらい欲しいとは言っていないだろ。金は金だ。では、三つ目の願いごとは何だ」
女は落胆したが、今度また失敗しないようにじっくりと考えた。女が考えていると、男はまたも催促する。
「おい、三つ目の願いごとは何だ」
女はまだ願いごとを決めている最中だった。
「ええと、もう少し考えさせてください」
「わかった。いいだろう」
そう言い終わると、男はどこかへ消えていった。
「あれ……どこへ行ったのだろう」
女はその男に二度と会うことはなかった。
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