1月4日 ポイントカードどこいった?
日曜日の昼下がりの午後、私はハンバーガーショップにいた。注文を済ませたところで店員はすかさず訊ねてくる。
「――ポイントカードはお持ちでしょうか?」
財布を取り出して確認するが、ポイントカードが見当たらない。財布のカード入れにはクレジットカードに、運転免許証、交通系ICカードが収納されているだけだった。
このハンバーガーショップ自体は久々に来たわけだったが、今まさに提示が求められているポイントカードは提携している様々なお店で利用することが可能だ。実際、三日前にイタリアンレストランに行った時には食事代の全額をポイント払いで済ませたのだった。最近使ったばかりなのだから、カードがどこかにいっているというのもおかしな話だ。
重なって入っていないか、確認するもどこにもない。収納スペースに一枚ずつしか入っていないのがそもそもおかしい。財布のカード入れには三つのポケットがあって収納できるようになっている。几帳面でない私はそこにポイントカードなどのあらゆるカードというカードを何枚も重ねて仕込んでいる。それぞれのポケットがわりとパンパンになるくらいに入れていたはずにもかかわらず、一枚ずつしか入っていないというのは、やはりどう考えてもおかしい。一瞬、盗難にあったかと考えもしたが、クレジットカードや交通系ICカードがそのまま入っていることからもそうではなさそうだ。財布からポイントカードだけを盗む犯人などいるまい。
最後にポイントカードを使ったイタリアンレストランのことを思い出してみる。確かあの時は、パスタとシーザーサラダ、本日のコーヒーを注文して、合計が一二九八円だった。いや、その時に一緒に行った友人も分もついでに私が支払ったのだった。だから二五九六円だ。
いや少し待てよと。そうだ、最後にパンケーキを追加で注文していた。ここのパンケーキは量が多いから一つ頼んで二人で分けようという話になったのだった。友人の言ったとおり、実際に出てきたパンケーキはでかでかとホイップクリームがかかっていた。コーヒーカップの二倍分くらいの高さのクリームは圧巻だった。この味とクオリティーで千円越えだなんてもう頼まないよと友人で話していたのだった。
随分と脱線してしまったが、イタリアンレストランでの食事のことなどこの際どうでもいい。今重要なのはポイントカードの所在だ。あの時もポイントカードを出そうとして財布の中を探したはずだ。財布のカード入れに何枚も重ねて入れているためにかなり時間を要した覚えがある。三日前にはあんなに何枚も入っていたポイントカードたちはどこへ消えていったのだろう。
ああ、私のポイントカードたち。と、嘆いていた時だった。
思い出した。
イタリアンレストランに行った後、近くにあった財布屋に立ち寄ったのだった。その際、レストランでおごってもらったお礼にと言って友人がカードケースを買ってくれたのだった。
肩にかけていたバッグを開けて、高級感のある革製のカードケースを取り出す。開いてみるとずらりとポイントカードたちが入っていた。ケースに入れたことを忘れるなんてなんとも間抜けなものだ。
カードケースの一ページ目の一つめのポケットには行きつけの美容室のカードが入っていた。次回ちょうど十回目となるため、ヘッドスパが無料でできることになっている。駅前に新しくできた美容室も気になっているため、次回はどちらに行こうか迷うところだ。
二つ目のポケットには服屋のポイントカードだ。十五回で三割引きのクーポンがもらえるらしいが、そんなにもあのお店で買い物をするかと言われるとそれは甚だ疑問だ。
三つ目のポケットには家電量販店のポイントカードが入っている。最近行っていないため、ポイントの有効期限がもうすぐ切れてしまいそうだ。最近、炊飯器の調子が悪いため、そろそろ購入するのもいいかもしれない。
そして四つ目のポケットには、これはポイントカードではないけれども、会員制スーパーマーケットのカードだ。かれこれ作ってから一年くらい経っている。せっかく会員になったのはいいが、一つの商品当たりの量があまりに多すぎることに加えて、自宅から離れた場所にあるために近頃はあまり行かなくなってしまった。更新もしていないためもう会員なのかどうなのかもわからない。
めくるもめくるも、ケースはポイントカードでうめつくされている。まるでカードゲームのコレクターのように数々のカードが収納されていた。改めてみるとこんなにもポイントカードがあったとは。きっとこのなかには一生使うことのないカードが何枚も含まれているのは簡単に予想できる。
それでも捨てずに持ち続けているのはなぜだろう。ポイントカードを見ればその時の出来事を思い出すことができるからかもしれない。
ドラッグストアのポイントカードはまさにその例だ。これは私が大学生の時に下宿をし始めた初日に作ったものだ。あの時は家にトイレットペーパーがなかったので急いで買いに行ったのだった。そして家に着いた後でごみ袋を買い忘れたことに気づき、もう一度行くはめになったことは今でも鮮明に覚えている。社会人となった今では、引っ越しをしてあのドラッグストアチェーンはこの地域にはないため、しばらく利用することはなさそうだ。
ポイントカードの数だけ思い出がある。だからどんどんとカードが溜まっていてしまうのだろう。思い出を捨てるなんて私には簡単にできない。
カードケースの最後のページに、ようやく目的のポイントカードが収納されているのを見つけた。これから頻繁に使うカードは一ページ目に入れることにしよう。店員さんが待ちくたびれているではないか。〝ハンバーガーを後からお席にお持ち致す〟時に使われる番号札をトレーからどけて、代わりに出来上がったハンバーガーを置いていた。期間限定の特別な商品のため、本来は「調理にお時間を頂戴いたしますがよろしいでしょうか?」と訊ねるべき商品のはずなのだが、あまりに長いことポイントカードを探していたために、ジビエ鹿肉バーガーはもう準備万端の状態となっている。
申し訳なく思いながらも、そっとポイントカードを店員さんに渡す。
「ポイント払いでお願いします」
すると店員さんは苦笑いしてから、このように話すのだった。
「申し訳ありません。このカードは当店、取り扱っておりません。こちらのカードはお持ちではありませんか?」
店員さんはレジ横に掲げられた利用できるカード一覧を指さしていた。ポイントカードには似たものが結構多い。デザインが似ているカードもあれば、口に出して言った時の響きが似ているカードもある。今まさに私はこの後者の方で間違えたわけだ。
「失礼しました。はい、そのカードなら持っています。ちょっと待ってくださいね」
そして私はカードケースを取り出し、ポイントカードの思い出とともに探し始めるのだった。
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