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 仕事を終えて家へと戻ってきた。部屋に入るとコンビニで買ったタバコをゴミ箱に投げ込んだ。あれから会社で何度か吸ってはみたが何も感じられなかったのだ。

 ポケットからSを取り出して中を見ると4本しか残っていない。私はため息をついて床に無造作に投げた。服を脱ぎ、洗濯機に投げ入れると汗で気持ちの悪い体をシャワーで洗い流した。

 正直このままSが切れてしまうとまたあの鬱陶しい羽虫に悩まされる羽目になってしまう。だが、あの高級品を買っていては給料がそれだけで消えてしまう。あの眼科も信用ならないのだから、いったいどうすべきかわからなくなっていた。

 シャワーを済ませ着替えると冷蔵庫からビールとつまみのあたりめを取り出して一息ついた。

 とにかく今日はこのまま飲んで酔っ払って寝てしまおうと考えた。そうすればとりあえず夜の間はSを吸うことは無いだろう。

 私はひたすら酒を飲み続けた。ただただ問題を先延ばしにしているだけなのは理解している。


「もうわからん……」


 私は缶ビールを一気に飲み干した。

 がんがんとした頭痛で目が覚めた。あたりは真っ暗で少し肌寒かった。いったいいつ眠ったのか全くもって覚えていなかった。

 電気をつけて時計を見ると深夜の2時であった。何とも縁起の悪い時間に目が覚めたものだと思った。寝ぼけ眼をこすってトイレにでも行こうかと思った時、視界の左半分が見えていないことに気が付いた。よく見ると、見えていないのではなく、視界が何かでふさがっているようであった。目をこすってみても何も違和感はない。これは間違いなく羽虫の集合体であると理解した。そのとたん、嫌な汗が流れだして気分が少しずつ悪くなっていくのが分かった。

 私はすぐさまSから一本取りだして一服した。しかし、依然羽虫は視界を覆っている。すかさず二本目に火をつけて口に咥える。

 そうしていると次第に落ち着いていき、視界を覆っていた羽虫が消えていった。

 タバコを流し台に押しつけ消すとトイレにこもって頭を抱えた。

 明らかに悪化している。Sを吸っていないとこんな事になるのかと思うと途端に焦りを感じてきた。このままにしておくといずれ視界全てが羽虫に覆われてしまう。その前にいくら金がかかろうともSを手に入れなければならないという事を本能的に感じ取った。

 お手洗いを済ませた私は財布を片手に夜の町に飛び出した。

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